イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で


日菜がいきなり台本とは全然ちがう言葉を発した。

ここは「ありがとうございます」と言って、ケーキのポイントを説明するはずなのに…。




「ちょっと、添えている生クリームと一緒に食べていただけますか」


「あ、はい…」




言われた通り食べるとリポーターは、




「あれ、ちょっと風味が変わりましたね?」


「はい。うちのガトーショコラはカカオの配分にこだわっていまして、45%と90%を二層にしております。
付け合せの生クリームと一緒に食べることで差がある両者が口の中でからみあい、食べた瞬間は別の風味でも、口の中でまろやかな甘さに変わるんです。一口一口でちがった美味しさを味わっていただきたいからです」




へぇ。


ほぉ。




と、スタッフの間から感心するような小声が聞こえた。


リポーターも素で感心したみたいで、本来は次のケーキに移るところをもう一口食べてみる。




「わぁ本当ですねぇ。上と下で苦みが微かにちがいますね!
一品で別々の風味が楽しめますね!」


「はい!単調な味が続きがちのガトーショコラに工夫を加えた、本店の自信作のひとつです」




これまでとは打って変ったにこやかな表情から生まれる言葉は、すっかり台本とはちがった日菜独自のものになっていた。

けど、なんら問題はない。
足立さんも、そのまま続けろ、とリポーターに目配せする。
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