イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で
「実はわたしの家、お父さんもお兄ちゃんもパティシエなんだ。お母さんもケーキが大好きで…だから一度に4,5品食べるのは当たり前だったの。でもそれが他の人から見るとすごく異質なことなんだって後から知って驚いて…。
わたしのことも『ファイターちゃん』ってあだ名されてて、ちょっとショックだったんだ」
「…でもそれは、別に悪意があって呼んでたわけじゃねぇよ。
食いもん出す側にとってはさ、客が美味しそうに食ってくれるのが何よりうれしいわけ。おまえの食いっぷりが、ほんと気持ち良くて、みんなうれしがる気持ちと親しみをこめて呼んでたんだぞ」
「そう、なんだ…。で、でも、他のお店ではそれほど食べなくても大丈夫なんだよ?
リヴァージだけは、どうしてもガマンできなくて…。だってどれもすごーく美味しいんだもん。なんていうのかな、作り手さんの個性が表れているって言うか…」
「個性?」
「うん…一緒に働いてよくわかったんだけど…。
暁さんのワッフルはほっこり甘くてホッてなる感じ。拓弥くんのは元気一杯で、フルーツがこれでもかって入ってるのが豪快で…美南ちゃんのフルーツドリンクは爽やかでスッキリしていて、そしてケーキは…」
「……」
「ケーキはシンプルで見た目だけじゃわからないんだけれど、食べるほどに魅力がたくさんつまっていて…うまく言えないんだけれど…」
「……」
「つらい時、悩んでいる時、晴友くんのケーキを食べると、なぜだかドキドキしたの。
晴友くんのケーキは特別。どこのお店に行ったって、こんな気持ちにはけしてならない」