イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で
怖がられたって、泣かれたって…もうかまうもんか。


こんなに惚れさせた、おまえが悪い…。



小さなあごに指をかけて、力を入れた。


真っ赤な唇を、味わおうとした―――その時だった。




ピピピピ…




電子音が聞こえた。

日菜のスマホからだった。


どこかほっとしたように音が漏れてくる通学バックに視線を移す日菜。

特別な相手からだろうか。出たそうにしている。




「…出ろよ」


「う…うん」




のぼせたようになっていた俺も、甲高いその音と日菜の様子に我に返った。


このままキスしていたら、日菜はどれほど困惑しただろう。

そして、そんな日菜を見た俺は、どれだけ後悔することになっただろう…。




「も、もしもし…え、あ、うん…!今…休憩だよ」




真っ赤だった日菜の顔が、見る間に青ざめていった。


家族からか?

もしかして、あの『お兄ちゃん』からか?




「もうすこしで終わるよ。う、ううん、大丈夫、お迎えはいらないよ」




困惑気に相槌を打って真実とはちがうことを零していく日菜。

そのたびに表情がどんどん暗くなっていく。

真面目で素直な日菜が、これ以上嘘をつくのを見るのはつらかった。

もうそろそろ、家に帰してやらないとな…。
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