イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で
「日菜っ」
晴友くんに呼び止められたのは、駅の出口の一角だった。
一瞬、聞こえないふりをしようかと思ったけれど…ゆっくりと振り返った。
晴友くんは駆け寄ってくると怒ったように言った。
「なに勝手に帰ろうとしてんだよ。送ってくって言ったろ」
「……」
「カンナは今頃マネージャーにこっぴどく怒られてるよ。あんな人が大勢いる前であんな行動とったんだ。自業自得だ」
素っ気なく言う晴友くん。
うつむくわたしの頭の中では、いろんな人のいろんな声がぐるぐる回っていた。
『「あの子」、最近仕事を始めたから来なくなっちゃって…。
それからというもの、あいつはイライラしっぱなし』
『あいつ、「あの子」のことマジで好きだったからな』
『わたし、晴友と付き合ってたのよ』
まさか…
あのカンナさんが、暁さんや美南ちゃん、拓弥くんが言っていた『晴友くんの好きな人』だったなんて…。
今日はすごくいい日と思ったのに。
何かが変わる日、と思ったのに…。
わたしの唇にふれる晴友くんの指。
息もできないくらいドキドキして、身体がとろけそうなくらい熱くなった。
キスされるって…期待した…。