イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で
けど、
そんなの甘い妄想だった。
晴友くんの想い人を知ってしまった後、ただのみじめで恥ずかしい記憶になってしまった。
一気に期待が高まって、あっという間に崩れ落ちた。
その痛みはとてもつらくて…高まった分、受けた傷が大きくて…もう涙すら出てこない。
今日はいい日なんかじゃなかった。
きっと、今までの人生の中で一番、最低最悪の日だ…。
はぁ、と晴友くんが苛立たしげに溜息をついた。
「…言っとくけど、カンナの言ったことはデタラメだからな。俺とカンナは本当にただの幼馴染なんだ」
晴友くん…芸能人のカンナさんのことをかばっているんだ…。
晴友くんは不器用だけれど本当はすごくやさしい男の子だ。
住む世界がちがっちゃってイライラしても、やっぱりカンナさんのこと守らなきゃ、って思っているんだ。
だからこうして否定するのも、カンナさんを想ってのことなんだよね…。
いいな…。
カンナさんが、うらやましい…。
なんだか、自分がものすごくちっぽけな人間に思えた。
目頭が熱くなって、凍っていた涙腺が溶けだした。
涙がこぼれそうになった。
…晴友くんの前でみっともなく泣けない。
晴友くんが慰めたいと思うのは、カンナさんだけ。
赤の他人でグズでちっぽけなわたしが泣いたって、ウザいって思われるのがオチだ…。
「うん…今日のことは聞かなかったことにするね。晴友くんとカンナさんは、なんでもないんだよね…」
「……」
「…わたし、帰るね。
ここまで来たらひとりで大丈夫だから…」
さよなら。
そう告げながら、踵を返す。
もう泣きそうだった。
晴友くんの顔を見ながら『お別れ』なんて、できないよ…。
「待てよ、日菜」