イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で
晴友くんは、不意の一発によろめきながらも、ぐっと踏みとどまった。
そして、ものすごい形相で、お兄ちゃんをにらんだ―――
けれども、
瞬時にその表情がほどけて、次に驚きの表情が広がった。
その表情になる理由を、わたしはよく解かっていた。
だって、さっき晴友くんが熱弁していた『ラ・マシェリ』の二代目こそが、
わたしのお兄ちゃん、立花凌輔だったから…。
お兄ちゃんはそんな複雑な立場に置かれた晴友くんの気など知らず、冷やかに言い放った。
「人のかわいい妹をたぶらかすとは、いい度胸だな」
「ちがうのお兄ちゃん…!」
思わずわたしはお兄ちゃんと晴友くんの間に立った。
するとお兄ちゃんは、今度はわたしを怖い顔で見た。
「日菜、どういうことだ。今日はバイトだろう?お兄ちゃんに嘘をついて、この男と遊び歩いてたのか?」
「ちがいます!これも仕事の一環で…」
「おまえは黙ってろ」
割って入った晴友くんに冷ややかに言い返すと、お兄ちゃんは見下すような口調で続けた。
「おまえ、日菜のバイト先のヤツだろ?
ちっぽけな店のバイト風情が、うちの日菜に手をだすなんて百年早いぞ」
「……」
「日菜は俺と同じ、名店の将来を担う有能な後継者なんだ。それをたぶらかしやがって。
俺はおまえを絶対に許さないからな」