イジワル先輩さま、ご注文は甘い恋で
目の前でブルブル震えるのは、子ネコじゃなくてただの人間の女だ。
しかもトロくてグズでドジな、しょうもないやつ。
「は、は…晴友くん…こ、こんにちは」
ちまっとした身体が近づいてきて、おずおずと頭を下げた。
勤務時間が始まったばかりだってのに、緊張して頬はもう真っ赤で、小さな手が不安げにエプロンを握りしめている。
こいつ―――立花日菜がここにアルバイトとして入ってきて2週間は経つけれど、いまだに俺に打ち解けないどころか、こんな調子でビクビクしてばかりいる。
ま、そうだろうな。
俺、こいつのこと怒ってばっかだし。
「おつ。今日こそしっかりやれよ」
「…はい。今日もよろしくお願いします」
やわらかそうな髪が、華奢な肩で上下に動いた。
…あー。
なんかムカつく。
もうすでにイライラしてくる。
怒るなってのも無理な話だろ。