夏の終わりの失恋歌(恋愛中毒1)
1.言葉にできない
「ヒコっ、久しぶり」

彩華は人が少ない大学のキャンパスで、にこりと眩しい笑顔を零した。

海に山にと夏を楽しんだことを示すように、顔も身体も小麦色に焼けていた。

そういえば、夏休み前に「10代最後の夏を満喫するんだー」なんて、騒いでいたな、と、伸彦は思った。

「よお」

低く答えて手を挙げる。
朝の10時からテンションを上げる余裕はなかった。

伸彦も彩華も同じ音楽サークルに属していて、別々のバンドを組んでいる。
本日は、大学での練習予定を入れていた。

「皆、機材取りに行ったよ」

大学に部室などないため、大学から少し離れたところに機材置き場を借りていた。
そこに、アンプやドラムセットを置いている。

「そう」

伸彦は肩に担いでいたキーボードを教室の机に置き、煙草を銜えた。

「ヒコは全然日焼けしないのね」

夏休み前と変わらない伸彦を見て、いいなーと、彩華が言う。

「あんまり焼いているとシミできるぞ」

「うわー、何それ。
 化粧品売り場のお姉さんにも同じこと言われたけど。
 焼かないと夏は楽しめないよ」

そんな夏、やってらんなーい!と、彩華は笑う。

「今日、練習終わった後、予定ある?」

唐突に、笑顔を止めて切り出した。

「………なんで?」

なんとなく嫌な予感がして伸彦は言葉を濁す。

「ダーツ行きたいの。夜でもいいや、時間あるなら付き合ってよ」

彩華がダーツを飛ばす仕草をする。
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