夏の終わりの失恋歌(恋愛中毒1)
青い海が見えてくると、俄然テンションがあがってくる。

真夏の海とはもう色が違うが、夏の終わりの海もまた素敵だ。
天気は良いのに、朝だからか、平日だからか、人はほかにいなかった。

真夏には、あんなに人でごった返していたのに。

夏が去れば、人は海から消えていくし、
恋が終われば、彼氏は隣から消えていくし、
ああ、もうなんだか淋しいことばかり。

来週二十歳の誕生日だって言うのに。
これじゃ、私の十代最後ってあまりにも切なくない?!

涙が溢れて頬を伝って落ちていく。



「喉渇いた」

いつの間に目を覚ましたのか、隣で伸彦が言った。
慌てて涙をぬぐう。

気まぐれ王子様はいつでもマイペースなのだ。

「もうすぐ着くよ。
後、5分くらいで」

「嫌だ、ね、そこのパーキングに停まって?」

200メートル先くらいにある、自動販売機しかないような狭いパーキングを指差す。

「……はいはい」

出来ることなら、『この猫差し上げます』とか言う張り紙付けて、ファンの子に押し付けたいわーなんてことを思いながら、彩華は車を停めた。

「ヒコ、何飲みたいの?」

後ろの席からバッグを取ろうと振り向いた瞬間。



唐突に、本当に、ありえないほど唐突に。
伸彦が彩華を抱きしめた。
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