夏の終わりの失恋歌(恋愛中毒1)
8.It's all right
散々泣いて、泣いて、泣き尽くしたら、案外気がすむものだということを、彩華は今、初めて知った。

……絶対今、メイクも全部落ちて散々な顔してるよね?
  どうしよう><

ずっと黙って彩華を抱きしめ、背中を軽く叩いたり頭をなでたりしていた伸彦が、すっとタオルハンカチを差し出した。

あまりにも、自然。
出来すぎたくらい、絶妙なタイミング。

……みんな、こういうところに、惚れちゃうのかなぁ。

うっかり納得しそうになるくらい一連の動作はスマートで、思わずドキリとしてしまう。

伸彦は、彩華の頭と背中においていた手を動かし、乱れた黒髪を整えると、そっと彼女の頬を両手で挟み、顔を上げた。
泣きはらした顔を覗き込む伸彦の眼差しは、甘く優しい。

黙っていても芸能人と勘違いされるくらいに整ったルックスが(ジャニーズ事務所に居てもおかしくないという理由で、バイト先の学習塾の生徒から『ジャニーズ先生』と呼ばれているという話まである!)、今、まさにキスできそうなくらいの距離にあって、彩華は鼓動が早まるのを感じた。

……いやいやいやいや。
  こーゆー展開は、その、えっと違うよね?
  どうしろっていうの、どうしろって。

彩華は動揺のあまり言葉が出ない。

ゆっくり、伸彦の顔が近づいてきて、彼の頬が彩華の頬に触れる。

「落ち着いた?」

……落ち着いたというよりは、むしろ動揺してますが。

そういうわけにもいかず、

「……おかげさまで」

と、口から出た言葉は小さく微かに震えていた。

「いい子いい子」

低い声で、子供を宥めるかのように伸彦は囁くと、アメリカ映画でよく見るような音だけのキスを残して、顔を離した。
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