夏の終わりの失恋歌(恋愛中毒1)
律儀にも(というより、後々の面倒を考慮して)伸彦は、海の駐車場によってくれた。
オンシーズンには有料駐車場になっているそのスペースも、今では無料駐車場となっていた。

車もほとんど止まってない。

砂が入らないようにジーンズの裾を折り曲げている伸彦を見ながら、彩華は「潔癖症確定」と、心の中でつぶやいていた。

夏の終わりの海風は、ひんやり冷たい。
それでも、田舎の海は深い緑に染まっていて、とても綺麗だった。

店じまいされた海の家の端に、二人で並んで座る。

寄せては返す波の音が耳に心地良い。


「ヒコって、なんでモテるの?」

「かっこいいからに決まってんじゃん」

冗談めかして、伸彦が答える。
そういわれると、彩華もついつい、冗談しか出てこなくなる。

「ズルいなー」

「何が?」

「そーゆーのって、独禁法とかに引っかからないの?」

「何を独占してんだ、何を」

「女の子たちの恋心に決まってんじゃん」

「だから、俺は恋人なんて作らない主義だって、言ってるだろ?」

「いつまで?」 

「主義が変わるまで」

……ああ、きっと好きな子に出会ったらあっさり主義なんて変えちゃうんだろうなーって思うと、笑えてくる。
  どんな子だろ?
  気になるな。

「変わる日が来るといいね」

「そうかな?」

「そうだよ」

人から好きだよって言われると、すぐに人を好きになってしまう彩華には無理な話だ。
誰に好きだよと言われても気持ちが変わらないなんて。

「ヒコ、すごいね」

「だろ?」

くだらない話で静けさが埋まっていく。




なんて、穏やかな時間。
なんて、平和な一日。

昨日の騒ぎが嘘みたい、と、彩華は思う。

嘘だといいのに、とも、思うけれど。
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