それでもボクはキミを想う

『仁、おじぃんとこ行く前に寄るとこあるから、ちょっとついて来てくれんか?』

『んー、ええで。何処行くん?』

『まぁ、付いてきたら分かる。』

そうオヤジに言われ、なんやねんと思いながらついて行った所は、家と工場から車で35分ほど離れた所に来た。

『仁、ここや。』

お父はんがボクを連れてきたとこは、

 “ 長岡中古自動車販売所”

というとこだった。

オヤジと社長の長岡のオッサンは、某大手自動車会社で働いとった時からの仲間で、ボクも小さい頃から可愛がってもろてた。

『お~、久しぶりやなぁ仁。
元気やったか? 』

“ ご無沙汰です~”なんて言いながら、事務所の客間に入り、案内されたソファーにオヤジと座った。

“ ほな話始めよか”と開口一番にオヤジからの衝撃な言葉には耳を疑った。

『仁、わしはお前に、後を継がせる気はないんや。
あれはわしの整備工場(しろ)や。
しかし、おじぃはんの事もあるし、わしも年やし近々引退も考えとるんや。
だから、場合によっては残務整理して閉めようと思とる。 』

驚いたボクを見た長岡のオッサンがオヤジの言葉を引継ぎ、

『 そこでやな、わしが近々地元の青森に帰らなあかんことになり、留守の間にお前のオヤジさんにここ頼む事になったんや。 』

オヤジらの話は続く…

『 そんでや、お前、わしの整備工場(しろ)を自分の整備工場(しろ)に変えてみんか?
整備工場(しろ)を生かすも壊すもお前次第やけどな?』

ボクはいきなりそう言われ、かなり驚きもある中、それより自分の可能性を賭けれて居場所(しろ)を創れる事に興奮した。

『オヤジ、オッサンおおきに!
ボク、気張るわ!!』

即答やった。

『あー、一つ言い忘れたけど、正式にあの整備工場(しろ)明け渡す事になったら、契約交わしてお前に売却するから、それまでにぎぉさん金を用意しとけよ』

とオヤジに言われて、ウキウキ気分も覚めた。

その年の11月に創業43年の

 “一ノ瀬自動車工業”

の幕が閉じボクのショップ

 total car produce 
   “ 神風(KAMIKAZE)”


になった。
 


 
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