それでもボクはキミを想う
霧中の狂想曲
~お近づき~
さっきまで手を伸ばせばすぐ側にいた…
隣におったキミの残り香…
ボクの頭からキミの笑顔が離れへん…
なぁ…
キミに会いとぉて会いとぉてこないな気持ちは初めてや…
…どないしてもたんやろか?
なんや寝付かれへんかったから、朝も早よぉから起きた。
いつもの朝やのに喉が渇いて仕方ない。
部屋がある二階から降りてリビングを抜けてキッチンへ行き、冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出して、一気に飲んだらテーブルにコップを置いた。
『はぁ…、今朝は当番やな…』
ボクは、小学二年生の時からオヤジ、おじぃと三人で交代しながら家事をしとった。
慎吾くんの会社で働くから家出て、おじぃの認知症もあり、オヤジが一人になったこともあるけど、また帰ってきてからはオヤジと二人で交代でしとった。
寝起きのすっきりせん頭で朝食を作る。
『んー、目玉焼きと玉子焼き…どっちにしよか?』
と、少し悩むと、“ご飯できたよ。”なんて呼んでくれるキミのことを想像してもて、ちょっとニヤけてみた。
『あかん…なんや調子狂うわ…』
ため息一つつきながら、また会えるかわからないキミのことを思うてた。
朝食作っとったらオヤジも起きてきた。
『なんや仁、ご機嫌やな?エエことあったんか?』
『んー、なんもない。
なぁオヤジ、塗装せなあかんのが二台あんねんけど、今日から一週間天気もええみたいやし、塗装場に置いてある野中さんから頼まれたダルマ(セリカ)の全塗もやっとこか?
前に全塗した濱さんのハコスカ(スカイライン)とおんなしあの派手なピンクにするんか?』
『おっ、ほな、頼んでええか?
あのハコスカなぁ、あの後エアブラシで和柄入ってますます派手になっとったけど、綺麗かったで!
それに野中さんのは、そんな訳ないやろ(笑)
パールホワイトで頼まれてんねや。
ところで仁、お前昨日の夕方に東原さんとこから連絡あったで。
S30Z頼んどったんか?』
『んー、やっぱし野中さんは違うんか…
頼んどるZはな、ショップのデモカーにしよか悩んどる。
慎吾くんとことに誘われてなぁ、来期のオートメッセにボクのショップも出展しよ思おとるんよ。
だから何や純正でほぼ出来上がっとる今の車出すより、旧車の方が目立つし、
まぁ、ボクも乗ってみたかったしな。』
『240Zじゃあかんのか?
まだまだ人気あるさかいに中々ええのが見つからんらしいで?』
『やっぱり130Zか、S30Zがええんや。
ボク、240Zのフロントが30Zのと比べたら好みちゃうねん。
なんせボクが産まれる前の古い車やからなぁ…
まぁ、東原さんやったらなんとかして見つけてくれはるやろ?』
『せやな(笑)
無理難題我が儘言うても聞いてくれはるんは、東原さんとこ位やで。』
『ほんま頼れるお人やわ。
そやったら、他にも頼みたい事あるから、夕方にでも東原さんとこに顔だしてくるわ。』
『おーっ、東原さんによろしゅう伝えといてくれ。』
ボクはオヤジと話ながら朝食を食べ終えたらさっさと塗装場へと向かい、仕事を始めた。
東原さんとこに夕方行こうと思とったのに、塗装真っ最中の昼過ぎに来た。
『いやぁ、頑張ってますね!仁さぁん。』
『ああどうも。
すんませんが、今、手放されへんからちょっとそこの椅子に座って待っといてくれませんか?』
ボクは作業しながら返事した。
『わかりましたぁ~。』
東原はんは少しボクから離れて作業をみとった。
『あの~、お仕事中すいませんがこっちも一つ仁さんに頼みたい事があるんっスよねぇ。』
『なんですの?
東原さんの頼みて何や恐いわ…
あっ、これどうぞ。』
ボクは一段落着かせて、東原さんを事務所に案内し、冷蔵庫から缶コーヒーを取り出すと東原さんに渡し、お互いタバコに火をつけ、吸いながら話だした。
『あっ、どうぞお構い無く。
それにそんな厄介な事は無いっスよぉ。
ちょっとうちに頼まれたアメ車なんっスけどねぇ…
これがちょっと…でしてねぇ?』
『アメ車って…車種は?』
『シボレーのC1500なんですよ』
『ああ、サバーバンやタホや無く、トラックの方やね?それがどないしたんです?』
『よくあるエンジントラブルと…厄介なのが雨漏りなんっスよぉ。
シートに雨の染みもいっちゃってるんで、内装変更もお願いしたいんっスよ。
後、ボディもスカイブルーに全塗装して欲しいんっスよ。』
『んー…それやったら見せてもろてから夜にでも見積書を持って行きますわ。』
『わっかりましたぁ。
では、表の駐車場に置いてあるあれなんで、後ヨロシク頼みますよぉ。』
『了解です。
それはそうと東原さん、ボクのZの方も頼みますわ。』
『はぁい、任せといてくださいな!』
ボクは仕事に戻り、しばらくして従業員の狩野さんが東原さんを迎えに来た。