それでもボクはキミを想う

夕方、東原さんから預った車を見た。

『三人乗りやな…
走るんばっかしやなく、こんな車でどっか行くんも楽しいやろなぁ…』

そんな事も思いながら、C1500を見ていった。

『何やエンジンのかかりももひとつやけど、ボディのちょこちょこある錆びも気になるなぁ…これは思うとったより色々直さなアカンなぁ…』

予想外に時間を費やしたが、見積書を作成し、ボクは東原さんの所へ向かった。

大阪にある東原さんのとこに行く途中で寄ったガソリンスタンドに、偶然の再開があったんや。

キミとちゃうんは残念やけど、キミの弟の響くんやった。

ボクのことに気づいた響くんが駆け寄ってきた。

『あああっあのっ…
はじめまして。
この間は姉貴がお世話になりありがとうございました!
ぼっ僕、藤崎響です。』

『ああ、この間の迷子の弟くん?』

響くん緊張しながら丁寧に僕に挨拶してきて、そこでやっとキミの名前が“ 莉乃”やと知った。

『はっはいっ!!
こちらこそよろしくお願い致します。』

『そないに緊張せんでええよ。
せや、時間ある?
ボク、ご飯まだやから付き合ってや。
どっか知っとる?』

『あっ、はい。喜んで!!
この近くに美味しいイタリアンがあるんですよ!』

男二人でイタリアンかいな…
まぁどこでもええわ。

『 後ろついて行くから先導してや。』

堪忍なぁ、東原さん。後で必ず行くさかい…
今のボクには逃がしとぉ無い神様がくれたチャンスなんや。

心の中でそう思いながら、響くんの車の後をついて行った…が…

『すっすみません!
ほんとに申し訳ございません!!』

『別にキミが悪い訳やないから、そないに謝らんでエエよ。』

ペコペコ頭を下げる響くん。

響くんお薦めのイタリアンレストランへ来てみれば、“本日定休日”と、ブラーンとプレートがドアに下がっとる。
焦る響くん見ながら、

『こないなお洒落なお店はボクや無く、彼女と行くもんやで?
ボクらにはこっちの方がお似合いや。』

取り敢えずその隣にある牛丼屋を指差した。

ボクらは、二人でカウンターに並んで座った。
そして二人して並盛の汁だく牛丼と味噌汁を頼んだ。

響くんは、走り屋仲間と結構山を走った後に寄るらしいけど、実は、胃がもたれる感じで、牛丼ってちょっと苦手なんて苦笑いしながらボクに言ってきた。

実はボクもやねん。

お互い小声で話とったけど、牛丼屋が聞いたら嫌な客やろな?何て思とった。

ほな、何で入ったんや!!って言われそうやけど、ボクはどこでもよかってん。

悪いけど響くんと繋がりもったら、必然的にキミとも繋がりもてるやろ?

またキミに会える?

ボクらは話優先で、たいした量の無い牛丼を前にして、中々食の方は進まなかった。

『あの車、元は父の物だったんです。
ドリフトするのに、やはりスポーツカーが人気なのは当たり前なんですが、やっぱりシルビアや180SXより僕にはローレルがよかったんです。
それでね、一ノ瀬さんが山で兄弟車のセフィーロに乗り走ってる姿を見つけ…
僕は憧れました…』

『そらおおきに。
キミがこだわるのがわかるわ。
ボクな、初めての車はソアラに乗っててん。
ドリフトするよぉなって、こいつ(セフィーロ)に変えたんやけど、まさかローレルで走っとるコがおるなんて思わんかったわ。
ところでキミ、所属チーム何処なん?』

『ボクはまだ何処にも入ってないんです…
あの、一ノ瀬さん、今度よかったら…
僕を乗せて走ってもらえませんか?』

“この子はFirstlineやなかったんか…”

『嫌や。』

『えっ…』

『ボクの車には乗せへんけど、キミの車で走るんはどないや?』

『!!!はいっ!!
ぜひお願いします!!』

『それと、こないだちょっと見てんけど、一緒におったハチロクの二人とは仲ええん?』

『浅井と久須本さんとは学校が一緒だったんです。
学生の時からそれぞれ活躍していて、特に久須本さんは学ドリの大会によく出てたし人気ありましたよ。』

『まぁ、二人の事はええねんけど、何でキミは何処にもはいらんの?』

『僕は、あまり目立つのは得意でないので…
それにまだチーム背負うほど自信ないし…』

『ほな、今度行った時でええからキミのドリフトをボクに見せてや?』

『あっ、はい。
恥ずかしながら、僕はまだまだ一ノ瀬さんに見せれるほどではありませんが、がんばります。』

『ほなよろしゅう。』

響くんには悪いけど、これでボクはまた、キミに会える。

キミは覚えてくれてるやろか…?

 
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