それでもボクはキミを想う
~久須本修平(くすもとしゅうへい)~
教習所の帰りに、真っ直ぐに家に帰るのが何となく嫌で、寄り道して帰ろうとあてもなくブラブラと歩いていると、後から“ファーン”とクラクションを鳴らされた。
振り返ると、黒い車から、
『莉乃さーん!』
と手を振っている久須本さんだった。
私は久須本さんに駆け寄ると、
『お久しぶり!
しかもこんなとこで会うなんてびっくりしたよ。どうしたの?』
『ああっ、俺の仕事場、この近所だから。
莉乃さんこそ何してんの?』
『教習所の帰りだよ。』
『じゃあ今からフリー?』
『うん、まぁね。』
『それなら俺も今帰る所だから、お茶位付き合ってくれないか?』
『いいよ。』
俺は心で喜び、助手席に誘おうとしたら後から来た車に早く進めと急かされた…
『ごめんなさい!
じゃ、あそこのファミレスに入ってて!
私も走って行くから!!』
と、莉乃さんを走らせる羽目になった!!
しかも、せっかく二人で行く店がファミレス!!
“しっかりしろよ!!俺!!”
なんて俺は思いながらさったさと駐車場に車を止め、莉乃さんを待った。
莉乃さんは、俺の所へ息を切らせながら走って来てくれた。
ああっ、なんて可愛いひとなんだ。
二人でファミレスに入り、メニューを見ていたら、莉乃さんのお腹が、“きゅう”と鳴いた。
『ごっ、ごめんなさい…
やだなぁ…恥ずかしい…
さっき、久々に思いっきり走ったからかな?』
と顔を赤くしながら言う姿を見て、ますます可愛いと思った。
『もしかしてお腹空いてる?
俺もどうせそのまま帰ってたら飯食ってるから、何か食う?』
と言ったら俺の腹の虫も“ぐぅ~っ”とタイミングよく鳴きやがった。
それを聞いた莉乃さんは、
『そうする。』
と言い、二人で顔を合わして笑った。
俺達は注文をして、話していた。
『今日も久須本さんは走りに行くの?』
『俺、車変えて、今、山は走ってないんだ。
最高速って、高速道路で早さを競方なんだ。』
『響はドリフト頑張ってるみたいだよ。』
『みたいだな(笑)
浅井ともチーム離れたし、前はみんなドリフトだったからよく連るんでれたけど、俺達、やることもチームもバラバラんなったから時間が中々合わなくなったし…
最近、響ともご無沙汰だな…』
『それはちょっと寂しくない?
あっ、でも響も一ノ瀬さんに呼ばれて毎日忙しそうだしね!』
そして、俺は“一ノ瀬”と言う名前が莉乃さんの口から出てきたからずっと気になっていた事をストレートに聞いた。
俺は女友達もかなりいるし、モテないわけでもない。
可愛い子もいれば、すっげぇ美人もいる。
でも、莉乃さんとは何でだろうか?
…俺…
カッコつけてなくて、普通なんだよ…
普通…
『なぁ、莉乃さん…一ノ瀬さんと付き合ってんの?』
俺の突然の質問に、莉乃さんは驚いた顔したかと思えば少し俯き、予想外の答えを返してきた。
『あの…私…
“付き合って”って言われた事ない…
言った事もない…』
なんか急にドヨーンと落ち込む莉乃さん見て、俺は笑いながら冗談っぽく言っちまった。
『じゃ、俺と付き合わねぇ?』
俺…、告ったゼ!!
頼む!莉乃さん、“うん”と言ってくれ!!
俺は久々に神に頼む思いだった。
一瞬目を大きくしてビックリしてたけど、
『ごめんなさい。
私…、一ノ瀬さんが…好き…。』
ああっ…やっぱり一ノ瀬さんの事が好きなのか…
莉乃さんは、鞄から本を取り出して俺に見せてきた。
『…これ、一ノ瀬さん載ってるの。
あのね、ここ…』
見れば一ノ瀬さんが優勝して…おっ!!このお姉ちゃんすっげぇ可愛いい!!
俺、好みかもな♪
うっわぁ~こっちのお姉さんは足キレイだ♪
しかも美人ばかりに囲まれて、羨ましいゼ!!一ノ瀬さん!!
…なんて言ってる場合かよ!!俺!!
しかも俺…振られた…
『これ、こないだのドリコンだろ?
これがどうしたんだ?』
俺、冷静を装う。
『うん…。
やっぱり一ノ瀬さんの凄さを改めて思ったのも事実なんだけど、これ見て何かね…ふうーっ…』
莉乃さんがため息つきながら指差したお姉様方に囲まれ笑顔の一ノ瀬さんの写真。
『やっぱり綺麗な人達に囲まれると嬉しくなるよね?笑って写ってる一ノ瀬さん見てると妬いちゃったよ。』
『この周りにいるお姉様方はお仕事してるだけだぜ(笑)
そんなに好きなんだ?一ノ瀬さんの事が。
俺の事、そんなにすぐに振らなくてもちょっとは考えてよ。』
『あっ、久須本さんはカッコいいと思うよ!!
でも、ズルズルと曖昧にするの嫌だし、一ノ瀬さんは私の事どう思ってくれてるかわからないけど、私は……彼が好きなの……だからごめん。』
『莉乃さん、そんな謝らなくでくれよ。
じゃ、俺とオトモダチならいいだろ?』
『ふふっ、私でいいの?』
『勿論、
これからは、俺が莉乃さんの恋愛相談も聞いてやるよ。』
俺は、莉乃さんの彼氏にはなれなかったが、正式にオトモダチにはなれのだ。
“まぁ、ヨシとしよう。”
俺は自分自身を心で慰めていた。