どうしてほしいの、この僕に
「僕が言ったこと、何も理解していないね。わかってくれたと思ったのに残念だよ」
 優輝は音楽を止め、ヘッドホンをはずし、わざわざ私のほうへ向き直る。ドキッとしたけど、それは気取られないよう口を固く結んだ。
「そんなに僕と一緒にいたくないとは、さすがに傷つくね」
「ちょ、ちょっと待って。そういう言い方、ずる……」
「ははははは!」
 車内に笑い声が弾けた。高木さんがこらえきれないように笑い出したのだ。
「ふたりとも朝から熱いなぁ。ごちそうさま」
「ち、違います!」
 慌てて否定したけど、高木さんは取り合ってくれず、まだ笑っている。
 優輝は正面を向き、ヘッドホンを耳にあてがった。どうやら本格的にへそを曲げてしまったらしい。
 なぜこんな展開になったのか、あれこれ考えてみるけど、結局よくわからない。中でも一番わからないのは、優輝が私と同居することをすんなり了承した理由——これにつきる。
 直接訊けばいいのかもしれない。でもきっと優輝ははぐらかすに決まっている。
 私の気持ちを知りたがるくせに、自分の気持ちはほんの少しも見せようとしないなんてずるいよ。そのくせふたりでいるときは恋人だなんて、むちゃくちゃだ。
 ——もし。
 私がもう少しだけ素直になれたら、優輝も私の疑問に答えてくれるだろうか。
 ——そんなわけないよね。
 だったら素直になる必要はない。
 単なる意地の張り合いだと言われたら否定できないけど、優輝とは最初からずっとこんな感じできてしまったし、もはやこれが互いに無理のない自然体のように思えた。
 だったらこのままでいいのかもしれない。
 いつかこのままでいられなくなるその日までは——。
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