どうしてほしいの、この僕に
 あまり話したくない内容だが、隠すこともないので、できるだけ主観を排除しながら説明した。柚鈴はげっそりした表情で大きなため息をつく。
「予想以上に言動が幼稚だけど、わざとなのかな。だとしたら少し面倒だね」
「もし友広くんと明日香さんが繋がっているなら、なんだか怖いよ」
 接点のなさそうな人同士が意外なところで繋がっている。そんなことはさほど珍しくはない。
 だいたい私と優輝だって、接点などなかったはずなのに、私の知らないところで勝手に繋がりができているし、そう考えるとこの世にはありえないことなどない気がしてくる。
 しかし柚鈴は「うーん」と難しい顔つきで首をひねった。
「でも本当の知り合いだったら、姫野明日香の名前は出さないかもね」
「あー確かに。私も守岡優輝の話題は避けたいもん」
「未莉の場合は特別だと思うけど」
「え、そうかな?」
「だっていきなりあの守岡優輝と同棲だよ。そんなの絶対他言できないでしょ。でも舞い上がって、ほのめかしちゃう子はいるかもね」
「……そうだね」
 私の今の立場が他人の羨望の的だということくらい、私だってよーくわかっている。だがしかし、その内実は微妙……。
 やっぱりこれって私が素直じゃないのがいけないのでしょうか。
「ん? 深刻な顔して、どうかした?」
 気がつけば柚鈴が私の顔を心配そうに見つめていた。
「あ、いや……じゃあ会社では今までどおりでいいよね」
「会社ねー」
 突然立ち上がった柚鈴は給湯室へ向かった。食品棚を開けて「うーん」と唸り、結局ミックスナッツの袋をつかんでソファへ戻ってくる。
「その新入社員くんは、未莉と付き合いたいって?」
 食塩不使用らしいよ、と付け足してナッツの袋を私のほうへ差し出した。私もお腹が空いていたので遠慮なくいただくことにする。
「それらしきことを言われたのは少し前だけど、そのとききっぱり断った」
「ほう。でもまだ何かと言い寄ってくるわけだ」
「というか、ずっとあからさまに無視されていたのに、今朝いきなり話しかけてきたと思ったら、優輝と私のことを何か知っているような発言をしてきて……」
「へぇ」
 ぼりぼりと音を立てながらナッツをかじっていたかと思うと、柚鈴は急に「気持ち悪い」とつぶやいた。
「私ならそんな会社やめるなー」
「えっ……」
 さすがに驚いた。何もしていない私がやめなければならないの?
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