どうしてほしいの、この僕に
 親しくもない他人から『努力しない女』と決めつけられるのは、こんなに気分が悪いものなのか。ずばり図星を指されたせいかもしれないけど、それにしても腹に据えかねる。
「そうですか」
 やっとのことで答えると、明日香さんは眉根をぎゅっと寄せ、自分の頬に手を添えた。
「開き直る気? 笑顔すら満足に作れないくせに、どうやって優輝さまに取り入ったんだか」
「別に取り入ってなんか……」
「そう。じゃあ笑わない女が面白かったのか、それとも不幸面に同情しちゃったのか。男の人ってそういうの放っておけないらしいから」
 この人はわざと私を煽っている。だから挑発に乗ってはいけない。
 そうわかってはいても、腹の底では炎がめらめらと燃え上っていた。このまま言われっぱなしは嫌だ。でも今は我慢。とにかく我慢しなきゃ……。
「お嬢さん方、声が大きいよ。こっちに筒抜けだ」
 突然低い声が割り込んできたので、明日香さんと私は同時にビクッと肩を震わせた。
「高木さん」
「それに、こんなところでする話じゃないな」
 戸口に顔を覗かせた高木さんは、うんざりした表情で私たちを見くらべた。
 明日香さんがスッと私から離れ、小声で言う。
「いつも保護者同伴なんだ。ひとりじゃなんにもできないなんて、子どもかよ」
「な、なんですって!?」
「未莉ちゃん」
 腰を浮かせて反撃しようとしたが、高木さんの鋭い声に邪魔された。
「帰る時間だ。姫野さんも乗せていこうか?」
「いえ、心配無用です。車を待たせていますから」
 ツンと鼻を上に向けて待合室を出ていく明日香さん。その颯爽とした後ろ姿には売れっ子のプライドがにじみ出ていて、私はすぐに目をそらしてしまった。

 車に乗ってしばらく沈黙の時が流れた。いつも陽気な高木さんが口を開かないのは珍しい。先程の明日香さんとの会話がマズかったか。そんな反省しながら運転席の様子をうかがう。
 高木さんはおもむろに自分の前髪をくしゃりとつかんでかき上げた。
「姫野明日香にはかまうな、と言いたいところだけど、向こうからちょっかいを出してくるんじゃ避けようもないか」
「私が適当に受け流せばいいんですよね。でもさっきはそれができなくて……」
「あの子、外見と中身のギャップが激しいからな」
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