どうしてほしいの、この僕に
「好きな子が近くにいたらかまいたくなりますよ。男にはいつまでもガキっぽい面があって、そこがかわいいところなんです(笑)」
「もちろんスマートに生きたいと願っていますが、僕は不器用なので仕事に集中しているときに恋愛のことは考えられない。まぁ器用になりたいとも思いません。スマートではなく、ストイックに生きるほうが僕には合っている。地道にコツコツと積み上げていくことにやりがいを感じるのです」
 ——では恋愛もコツコツと地道なお付き合いを?
「どうでしょうね。激しく燃え上がるような恋に憧れる気持ちもありますが、相手ときちんと向き合おうと思えばやっぱり地道にコツコツとお付き合いすることになる気がします。恋って刹那的な感情で、それゆえに美しいという考え方もあると思いますが、僕はそれだけの恋愛には興味がない。せっかく同じ時を過ごすなら、どんなことでも共有したい——つまりストイックと見せかけて、僕は誰よりもよくばりなんです」

 ストイックと見せかけてよくばり、か。
 前に言っていたのと違うじゃない。まるでストイックが自分の売りだとばかりに堂々と主張していたくせに。
 だけどここで気になるのはやっぱり初恋、だよね。
 しかも、高校生のときにはじめて恋した人をたぶん今でも好き、だとか。
 それにしても、過去についてはこれまでずっと秘密にしていたくせに、どうして今頃こんなことを言い出すのだろう。
 おまけに雑誌なんかで宣言しちゃって、これを読んだ女性ファンはがっかりすると思うけど。だってみんなが知りたいのは「どういうタイプの女性が好き」かということで、優輝の想い人のことなんか本当は知りたくないのだ。
 私は雑誌を閉じて後頭部をシートの背もたれに押しあてた。
 この記事を読んでから、なぜだか心の端っこがざわざわして落ち着かない。
 同時に妙に納得できることもあり、それがますます私の心を脅かすのだ。
『俺が出ていくよ』
『もう限界なんだ』
『眠れない夜が続くのは』
 あれはつまり、優輝の心の中には初恋の人がいて、私と同居している状態が耐えられないという意味だったのでは——?
 もし私が逆の立場で、相手がどんなにかわいそうな境遇だとしても、好きでもない男性と長期の同居なんて絶対に考えられない。そもそも顔見知り程度の男性といきなり同居するとかありえないし。
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