どうしてほしいの、この僕に
驚いて振り向くと、女性店員が小走りで近づいてくる。長い髪が左右に揺れるのをぼんやり眺めていると彼女が私の前に到着した。
「お急ぎのところごめんなさい。少しお話ししたくて休憩もらってきました。駅までご一緒してもいいですか?」
「ええと、もちろんかまいません」
ためらいを心の片隅に押しのけて、彼女と並んで歩き始める。
私を見上げた彼女は、緊張した面持ちで「あの」と口を開いた。
「私のことはご存じないですよね?」
「え、あ、……んーっと」
脳みそフル回転で考えてみる。私が彼女を知っているとすれば、可能性はひとつ——。
「もしかして沙知絵さんですか?」
「そうです。山口沙知絵と申します」
肩の辺りでふわっとした笑顔が花開く。
全身にゴーンと大きな鐘の音が響いた。この人が、沙知絵ちゃん!
「柴田未莉さん、ですよね?」
「はい」
「わぁ、なんだか不思議です。未莉さんは私たちの間では有名人だったから、こんなふうに会話できるなんて夢みたい」
「私が有名人?」
「ええ。だって地元在住の人気モデルですよ。あなたを見かけた男子たちはみんな自慢げに話していました」
知らなかった。通学する途中で、なんとなく視線を感じることはあったけど、山奥の女子校では表立ってあれこれ言う生徒はいなかったのだ。私の父親が学校のスポンサーで、姉も世界で活躍していたから、私に媚びようとするクラスメイトは後を絶たなかったが、私自身は珍しくもなんともない普通の女子高生だった。——違ったのか!?
「はぁ、それは意外です」
なんとかそう返事をすると、沙知絵さんはがっくりと肩を落とした。
「優輝だけはそういう世間のミーハーな話題とか全然興味なさそうだったのに、ホントあれは突然でした。あなたのことを悪く言ったクラスの男子にいきなりキレたんですよ。あのときはみんなびっくりしました」
「へぇ、それは想像できませんね。何か悪いものでも食べたのでは?」
思わず茶化してしまったけど、本当にそんなことがあったのなら少し嬉しいかもしれない。
くすぐったいような気持ちを抑えて沙知絵さんを見ると、彼女はまたふんわりと笑った。
「未莉さんは優輝と付き合っているんですか?」
な、な、なぜ突然そうなる!?
驚きのあまりこれ以上ないほど目を丸くしながら必死で首を横にふる。沙知絵さんはそんな私から視線を外した。
「お急ぎのところごめんなさい。少しお話ししたくて休憩もらってきました。駅までご一緒してもいいですか?」
「ええと、もちろんかまいません」
ためらいを心の片隅に押しのけて、彼女と並んで歩き始める。
私を見上げた彼女は、緊張した面持ちで「あの」と口を開いた。
「私のことはご存じないですよね?」
「え、あ、……んーっと」
脳みそフル回転で考えてみる。私が彼女を知っているとすれば、可能性はひとつ——。
「もしかして沙知絵さんですか?」
「そうです。山口沙知絵と申します」
肩の辺りでふわっとした笑顔が花開く。
全身にゴーンと大きな鐘の音が響いた。この人が、沙知絵ちゃん!
「柴田未莉さん、ですよね?」
「はい」
「わぁ、なんだか不思議です。未莉さんは私たちの間では有名人だったから、こんなふうに会話できるなんて夢みたい」
「私が有名人?」
「ええ。だって地元在住の人気モデルですよ。あなたを見かけた男子たちはみんな自慢げに話していました」
知らなかった。通学する途中で、なんとなく視線を感じることはあったけど、山奥の女子校では表立ってあれこれ言う生徒はいなかったのだ。私の父親が学校のスポンサーで、姉も世界で活躍していたから、私に媚びようとするクラスメイトは後を絶たなかったが、私自身は珍しくもなんともない普通の女子高生だった。——違ったのか!?
「はぁ、それは意外です」
なんとかそう返事をすると、沙知絵さんはがっくりと肩を落とした。
「優輝だけはそういう世間のミーハーな話題とか全然興味なさそうだったのに、ホントあれは突然でした。あなたのことを悪く言ったクラスの男子にいきなりキレたんですよ。あのときはみんなびっくりしました」
「へぇ、それは想像できませんね。何か悪いものでも食べたのでは?」
思わず茶化してしまったけど、本当にそんなことがあったのなら少し嬉しいかもしれない。
くすぐったいような気持ちを抑えて沙知絵さんを見ると、彼女はまたふんわりと笑った。
「未莉さんは優輝と付き合っているんですか?」
な、な、なぜ突然そうなる!?
驚きのあまりこれ以上ないほど目を丸くしながら必死で首を横にふる。沙知絵さんはそんな私から視線を外した。