どうしてほしいの、この僕に
「姫野明日香との噂はデマだろうと思っていました」
「どうして?」
「優輝のタイプとは違うからです。あの人、自立した女性が好きなんですよ」
「そうですか。誤解のないように言っておきますけれども、私と守岡優輝は付き合うどころか、なんの接点もありませんので」
動揺を無理矢理ねじ伏せ、なぜそんな誤解をされたのかわからない、というように眉を寄せた。現に居候の私は自立した女性とは言いがたい。
だが、沙知絵さんは私の心の内を見透かすような目を向けた。
「じゃあ、どうしてうちの書店にいらしたのですか?」
「え、いや、あの……墓参りのついでです」
そう答えると沙知絵さんは急に歩調を落とし、振り返った私にひどく思いつめた表情を見せる。
「未莉さん、お願いです」
「はい?」
思わず条件反射で返事をしてしまうが、彼女はいったい私に何を頼むつもりなのか。身構えていると、沙知絵さんが真剣な顔で切り出した。
「優輝に、一度くらいは実家に戻るように、未莉さんから説得してもらえませんか」
——え?
「いや、だから私は……」
「無理なお願いであるのは承知しています。でも店長がかわいそうで……」
私は先ほど家に上げてくれた優輝の父親の姿を思い出した。
「優輝、けがをしたそうですね。その後すぐ、お店に本を大量発注してくれたんですよ。今までもうちの店から本だけでなくDVDなんかも買ってくれています。だけどそれはすべて事務所を通しての注文で、店長には一切連絡がないんです。昔からふたりの仲は悪かったけど、たったふたりの親子なのに、このままずっと帰ってこないつもりだとしたら悲しすぎます」
彼女の切々とした訴えは、事情を知らない私の胸にも迫ってくる何かがあった。母親を亡くしても、父親が生きている。会いたくても会えない私にとって、それは妬ましいほど幸せなことだった。
「お気持ちはわかりました」
途端に沙知絵さんの顔が花が咲いたようにほころんだ。
「ありがとうございます!」
「でも説得に関しては期待しないでください」
私は沙知絵さんの目をまっすぐに見る。
「守岡優輝は『過去を捨てた』と公言しているようです。もし私が彼に会うことができて、実家に帰るよう伝えたとしても、そう簡単に彼が気持ちを変えるとは思えません」
「どうして?」
「優輝のタイプとは違うからです。あの人、自立した女性が好きなんですよ」
「そうですか。誤解のないように言っておきますけれども、私と守岡優輝は付き合うどころか、なんの接点もありませんので」
動揺を無理矢理ねじ伏せ、なぜそんな誤解をされたのかわからない、というように眉を寄せた。現に居候の私は自立した女性とは言いがたい。
だが、沙知絵さんは私の心の内を見透かすような目を向けた。
「じゃあ、どうしてうちの書店にいらしたのですか?」
「え、いや、あの……墓参りのついでです」
そう答えると沙知絵さんは急に歩調を落とし、振り返った私にひどく思いつめた表情を見せる。
「未莉さん、お願いです」
「はい?」
思わず条件反射で返事をしてしまうが、彼女はいったい私に何を頼むつもりなのか。身構えていると、沙知絵さんが真剣な顔で切り出した。
「優輝に、一度くらいは実家に戻るように、未莉さんから説得してもらえませんか」
——え?
「いや、だから私は……」
「無理なお願いであるのは承知しています。でも店長がかわいそうで……」
私は先ほど家に上げてくれた優輝の父親の姿を思い出した。
「優輝、けがをしたそうですね。その後すぐ、お店に本を大量発注してくれたんですよ。今までもうちの店から本だけでなくDVDなんかも買ってくれています。だけどそれはすべて事務所を通しての注文で、店長には一切連絡がないんです。昔からふたりの仲は悪かったけど、たったふたりの親子なのに、このままずっと帰ってこないつもりだとしたら悲しすぎます」
彼女の切々とした訴えは、事情を知らない私の胸にも迫ってくる何かがあった。母親を亡くしても、父親が生きている。会いたくても会えない私にとって、それは妬ましいほど幸せなことだった。
「お気持ちはわかりました」
途端に沙知絵さんの顔が花が咲いたようにほころんだ。
「ありがとうございます!」
「でも説得に関しては期待しないでください」
私は沙知絵さんの目をまっすぐに見る。
「守岡優輝は『過去を捨てた』と公言しているようです。もし私が彼に会うことができて、実家に帰るよう伝えたとしても、そう簡単に彼が気持ちを変えるとは思えません」