どうしてほしいの、この僕に
 くすぐったいというほどでもなく、心地よいくせに心が波立つようなもどかしい刺激。次第にその手つきが煽情的になるのを、むしろ期待してしまう私。
 吐息が切なく甘く濡れる。
 ただ背中を撫でられているだけなのに——。
「感じるんだろ?」
 優輝の胸に額を押しつけ、弱々しく首を横に振った。
「じゃあ、ここは?」
 彼の指がいきなり下着の内側に忍び込む。脇の下からするりと隙間に侵入し、ふくらみの先端を指の腹で弾いた。
 電気が駆け抜けたような衝撃が私の身体を貫く。声にならない声が漏れた。
 少し遠ざかったかと思いきや、彼の指は再びふくらみの頂へと戻り、今度は円を描くように執拗に捏ね回し始めた。
「ん……っ」
「こんなに硬くして、いけないコだな」
「ちがっ……んぅ」
 優輝が耳元でフッと笑う。その吐息に反応して身震いすると、急に彼の指が私から離れた。
「シャワー浴びたら?」
「あ、うん」
 私は顔を上げて優輝をまじまじと見つめた。突然繋がれていたロープを放たれて、沖に流される小舟になったような気分だった。居心地が悪くなり、慌てて彼のTシャツから手を離す。
 脇に挟んでいた松葉杖を握り直し、優輝はリビングルームへ戻る。
 しばらく茫然とその場に立ちつくしていたが、身体の火照りはすぐにおさまりそうにない。私だけ熱くなっていたことが猛烈に恥ずかしかった。急いで服を脱ぎ、バスルームのドアを開けた。

 シャワーを浴びてさっぱりすると気分も落ち着いた。
 考えてみれば、あの体勢で続きを期待するほうがどうかしている。まだ負傷した足には加重できない。優輝はきっと無理していたのだ。
 じゃあ変なことしなければいいのに。
 そう思いながら水を飲みにキッチンへ向かう。
 リビングルームでは難しい顔をした優輝が書類に目を通していた。私に気がつくと「見る?」と手にした紙をひらひらさせる。
「見てもいいの?」
「もちろん」
 私はコップに水を満たし、ソファの向かい側に座った。すかさず優輝が傍らのクッションを差し出した。床にじかに座って冷えるのを心配してくれたのだろうか。些細なことだけど、優しさがじんと心にしみる。
「本当に覚悟はあるのか?」
 ローテーブルの上に書類を無造作に放ると、優輝は私に鋭い視線を投げかけた。
 バラバラにテーブル上に広がったコピー用紙をそろえて手に取る。
 ——おや?
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