どうしてほしいの、この僕に
 私はシーツとふとんの間に足を滑り込ませ、体を横たえるまでしばらく彼の寝顔を鑑賞していた。
 そう、その形のよい唇が突然動くまで。
「寝ないの?」
 私は驚きのあまりシーツの上で跳ねた。
「起きていたの!?」
 寝たふりをしていた優輝は、私の腕をつかむと自分のほうへ思い切り引っ張る。私はされるがままに彼の胸の中へ倒れ込んだ。
「あの、重くないですか?」
「重い」
 と言いながら優輝は私の首に腕を回し、きつく抑えつけるので避けることもできない。
「未莉」
 甘ったるいような優しい声が至近距離で発せられた。
「俺に隠していること、あるだろ?」
 途端に全身が硬直する。
 ——な、なんのことだろう? 優輝の実家に行ったことがバレた? もしかしてお姉ちゃん!?
 私は頭をフル回転させ、戦闘態勢に入る。
「えっと、なんのことでしょう?」
「事務所に変なメールが届いた。俺の父親を名乗るヤツから『お前の部屋のポスターのお嬢さんが我が家にお見えになりました。彼女と話をしましたよ。とても感じのいいかわいいお嬢さんでした。どうだ、うらやましいだろう』だそうな」
 ——うっ、それは正真正銘、優輝のお父上からのメールではありませぬか?
 どう返事をしたらよいものか。
 というか、お父上、「どうだ、うらやましいだろう」って……。
 身を固くしたまま、しばらく瞬きを繰り返す。
 これは非常にヤバい展開だ。
 だけど私は姉の言葉どおりに本屋さんに行っただけ。見事ドッキリに騙されたんです。私、悪くない!
「未莉」
「はい?」
「何か言えよ」
 優輝の腕がさらに私の後頭部を圧迫するから、頬が彼の胸に押しつけられて苦しいくらいだ。優輝のぬくもりと鼓動を直に感じられるこの状態で嘘をつくのはとても難しい。
 でも私にお父上のメールの内容を暴露したということは、あの部屋のポスターの存在を認めるの?
 ——ええい、ダメもとで訊いてしまえ。
「その……お嬢さんは誰のことなんでしょうね」
「もしメールが悪戯でなければ、俺の実家に行ったヤツがいるんだろうな。とても感じがよくて、かわいいお嬢さんらしい」
 最後のほうは嫌味がたっぷりこもっていたが、私は素知らぬ顔をする。
「うらやましいですか?」
「別に」
 ——あーそうですか。
 心の中で盛大に悪態をつきながら、目を閉じた。
 突然、頭にポンと大きな手がのる。
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