どうしてほしいの、この僕に
 私と共演することでまた何か事件が起きるんじゃないかと心配しているくせに。
 でもやっぱり優輝は私のことを応援してくれていたんだ。そう思うと心の奥のほうが温かくなる。
「で、私はこれから何をすればいいのかな?」
「とりあえず契約社員は辞めてもらうわよ」
「え……でも」
「撮影は1ヶ月以上かかるから、OLを続けるのは無理でしょう」
「……わかった。明日上司に報告する」
 ついにこの日が来たか。さらば安定収入!
 姉と伊藤さんと3人で今後のスケジュールを確認し、私はタクシーで帰る。車中で興奮さめやらぬまま柚鈴にメールを送り、携帯電話を鞄にしまった。
 そしてタクシーの低い天井を仰ぎ見る。
 ——お父さん、お母さん、もう少しで夢が叶うかも。
 こんなとき、一番に伝えたい相手がいるとすれば、やっぱりそれは両親かもしれない。

 マンションに帰ると、優輝が鼻歌を歌いながら雑誌を広げていた。妙に機嫌がいい。
 背筋に寒気が走るのをなんとかやり過ごし、まずは深々と頭を下げた。
「スペシャルドラマの件、お力添えいただきまして本当にありがとうございます」
「よかったな」
 優輝はそれだけ言うとまたハミングし始めた。相当浮かれている。
 なんだろう。この不気味な感じ。
「あ、未莉にプレゼント」
 彼は急に思い出したように部屋の片隅のダンボール箱を指さした。宛先は高木さんの名前になっている。
「えっと、これ宛先が優輝でも私でもないのですが」
 よく見ると住所も成田プロの事務所だ。
「俺の名前で買うと、ここに住んでいるのがバレるだろ?」
 なるほど。顔が割れているから店で女性ものは買いにくいし、個人情報がばれるから通信販売も利用できないらしい。とかく有名人には生きにくい世界だこと。
 それで中身はなんでしょうか。
「品名『ルームウェア』?」
 読み上げた時点で、思わず「はぁ!?」と奇声を発してしまう。
「ぷ、プレゼントとおっしゃいましたか?」
「ええ、そう申し上げましたが」
 面白がって丁寧な口調で返答する優輝を、私は思い切り睨んだ。
「頼んでいないし!」
「そろそろ俺のパジャマ返せよ」
「だったら言ってよ。自分のパジャマくらい自分で買うし!」
 図々しいのは私のほうだとわかっていても、とりあえず文句を言わずにはいられない悲しい性。自己嫌悪で箱の上にうなだれる。
「開けてみれば?」
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