どうしてほしいの、この僕に
「初恋の人が俺のことをどう思っているか知りたいから」
 今朝はずいぶんと攻めてくるな、と思いながら大根を切り刻む。熱があるせい?
 でも知りたいと思ってくれるのは、正直なところ嬉しい。
「それはまぁ……実際カッコいいですよね」
 恥ずかしいけど思い切って言った。が、意外にもそれほど恥ずかしくない。
 むしろ、もうちょっと褒めてあげたい気分かも。
「それにすっごく優しいですよね」
 だって優輝は体を張って私を守ってくれたのだ。そこまでしてくれた人を『優しい』としか表現できない己のボキャブラリーの貧困さを呪いながら大根を鍋に投入する。
「すげぇ嬉しい」
 チラッと優輝の顔を見てみると、照れたように笑っていた。
 ——うわぁ、なんだろう、これ。私まで嬉しくなっている……?
 動揺を隠すように調理に集中するが、意識は優輝のほうに向いたままだ。
「でも優輝は『誰とも付き合う気はない』と言いましたよね?」
 気を紛らわそうとして口から出たのはそんなセリフだった。
 ——しまった。口が滑った。
 優輝は「ああ」と微妙なトーンの感嘆を漏らす。
「言ったな。未莉がここに来た最初の夜だよな」
「それはつまり、誰に対しても本気にはならないってこと?」
 包丁を持つ手がぶるぶると震えるので、包丁を置いて優輝を正面から見据えた。
 ——いつかは確かめなきゃいけないことだけど、だがしかし、それはみそ汁を作っているこのタイミングなのか!?
「俺は……」
 私は慌てて「あー!」と大声を上げる。
「ちょっと気になっていただけなので答えなくていいです。いやーしかし、明日香さんのドラマが打ち切りにならなくてよかったですよね」
「そうだな」
 ふー、危なかった。
 朝から病人に尋問する事柄ではないし、そもそも優輝の本心を確かめる必要はあるのか。
 ——そうだよ。彼の初恋の人は私で、雑誌には『初恋が僕の中ではまだ終わっていない』と告白していたじゃないか。それってまだ私を好きだということだよね?
 でも雑誌のインタヴュー記事を鵜呑みにしてよいものか悩む。書かれていたことが本心とは限らない、というかむしろ突然の告白には何らかの意図があったと考えるべきではないか。
「……聞きたいような、聞きたくないような」
「ん?」
「あー! えーっと、朝ごはんできました!」
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