どうしてほしいの、この僕に
 直感だからどこが似ているかは説明できないけど、横に立ったときの背格好と心が冷えるような居心地の悪さは経験したことがあると、とっさに脳が反応したのだ。
 ミーティングの前に物陰へ姉を呼び出し、こっそりブレスレットを渡した。
「なにこれ?」
「預かってほしいの。後で説明する」
「素敵なブレスレットね」
 姉はいろいろな角度から眺めていたが、人の気配がすると素早く自分のバッグにしまう。それから「行くわよ」と私の背中を押した。

 顔合わせでは、マスク姿で松葉杖をついて登場した優輝に注目が集まり、私が口を開いたのは自己紹介を兼ねた挨拶のみとなった。
 緊張していたのもあるが、サイティさんのことが気になって仕方なかったのだ。彼女は西永さんへにこやかに話しかけ、西永さんのほうも気心がしれたように接している。
 ——やっぱり私の勘、当たり!?
 その西永さんがミーティング終了後、私に声をかけてきた。
「いやー、本当に助かったよ。未莉ちゃん、君は僕の天使だ!」
「いえ、あの、私は何もしていないので、礼は守岡さんに言ってください」
「未莉ちゃんはなんて謙虚なんだ。僕の彼女になってほしいね」
 ——うわぁ、何を言いだすんだ。
 この場からすぐさま逃げ出したいけど、周囲の目があるから難しい。まさに逃げ腰になっているところへ強力な助っ人が現れた。
「困ります。未莉は私の大事な妹よ。あなたのような遊び人は近寄るのも遠慮してもらいたいわ」
 姉は笑ってはいるものの、不機嫌そうに眉を寄せている。
 急に目の前の人が大笑いし始めた。
「ハハハ、まいったな。紗莉のお眼鏡に敵う相手はどんな男だか見てみたいものだ」
「少なくとも西永さんではないので安心してください」
 きっぱり宣言した姉は、私に「さ、行くわよ」と声をかけた。
 通路に出るとひと際目を引くいでたちのサイティさんがこちらへ向かって歩いてくる。
「またお会いしましょうね」
 すれ違いざま、不自然なほどゆったりとした口調の低い声を耳にした。

 ミーティングの帰り道、姉は最寄りの駅に寄った。
 コンビニエンスストアで飲みものを4人分購入し、タクシー乗り場から少し離れた人影がまばらな場所で立ち止まる。
「迎えが来るからここで待ちましょう」
「迎えって、高木さん?」
「そうよ」
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