どうしてほしいの、この僕に
優輝とのやり取りをあれこれ懐かしく思いだしていると、不意に私を呼ぶ声が聞こえた。
「未莉さん」
——誰!?
振り向いた私の目に、見覚えのある長身の男性の姿が飛び込んできた。
——うそ、どうしてここに?
驚いたことに友広くんがタクシーの横に立っていた。
「とりあえず乗ってください」
「でも今日はみんなで食事に行くことになっていて……」
後ずさりしながら返事をしたが、彼は大股で私の前までやってくると強引に手首をつかむ。
「じゃあその店まで送ります。少し話をしたいのでね」
友広くんは先に私をタクシーに押し込み、自分も乗ると運転手に行き先を告げる。この先にある新しくできた日本一の高さを誇るタワーへ向かうようだ。
「未莉さん。時間がないので挨拶ぬきで本題に入ります」
「そうしてもらえると助かります」
というか、友広くんが私に何の用があるというのだろう。皆目見当がつかない。
眉間に深い皺を刻みつけて次の言葉を待つ。
彼は一呼吸置くと、静かに告げた。
「ドラマを降板して、今後芸能活動から手を引いてくれませんか」
「なによ、それ。どういう意味? なぜ友広くんにそんなことを言われなきゃいけないのかわからない」
一気に頭に血が上った。
「未莉さんがひどい目に遭うのを見たくないからですよ」
友広くんはさらりと言った。
「私がひどい目に遭うと、どうしてわかるの?」
「それが無理なら、守岡優輝をふってください」
「は?」
タクシー運転手が守岡優輝という名前が出た途端「えっ」と声を上げる。
私は小声で反論した。
「意味がわからない。きちんと説明してほしいんだけど」
「あの男と未莉さんは一緒になれない」
友広くんにはその確信があるようだった。だが説明する気はないらしい。
「つまり友広くんが私をひどい目に遭わせるということ?」
「僕は嫌なんです」
思わず首をひねった。
「じゃあそんなことしなきゃいいじゃない」
「もう止められませんよ。動き出してしまったものを今さら……」
「どういう意味? それってもしかして姫野明日香が関係している?」
友広くんは弱々しく首を横にふった。
「僕が助言できるのはここまでです」
え、今の……助言だったの?
今すぐ芸能界を引退するか、優輝をふらなければ私がひどい目に遭うって、ほとんど脅しじゃないか。
冗談じゃない。私だってどっちもごめんだ。
女優デビューする前に引退なんてしたくないし、優輝と本当の意味で結ばれる前に理由もなく私からふるなんておかしいじゃないか。
目的地に着くと、友広くんは私に紙幣を差し出し、自分だけタクシーを降りた。
「僕があなたの一番ならよかったのに」
ドアが閉まる前に聞こえた友広くんの声が、なぜかずっと耳に残った。
「未莉さん」
——誰!?
振り向いた私の目に、見覚えのある長身の男性の姿が飛び込んできた。
——うそ、どうしてここに?
驚いたことに友広くんがタクシーの横に立っていた。
「とりあえず乗ってください」
「でも今日はみんなで食事に行くことになっていて……」
後ずさりしながら返事をしたが、彼は大股で私の前までやってくると強引に手首をつかむ。
「じゃあその店まで送ります。少し話をしたいのでね」
友広くんは先に私をタクシーに押し込み、自分も乗ると運転手に行き先を告げる。この先にある新しくできた日本一の高さを誇るタワーへ向かうようだ。
「未莉さん。時間がないので挨拶ぬきで本題に入ります」
「そうしてもらえると助かります」
というか、友広くんが私に何の用があるというのだろう。皆目見当がつかない。
眉間に深い皺を刻みつけて次の言葉を待つ。
彼は一呼吸置くと、静かに告げた。
「ドラマを降板して、今後芸能活動から手を引いてくれませんか」
「なによ、それ。どういう意味? なぜ友広くんにそんなことを言われなきゃいけないのかわからない」
一気に頭に血が上った。
「未莉さんがひどい目に遭うのを見たくないからですよ」
友広くんはさらりと言った。
「私がひどい目に遭うと、どうしてわかるの?」
「それが無理なら、守岡優輝をふってください」
「は?」
タクシー運転手が守岡優輝という名前が出た途端「えっ」と声を上げる。
私は小声で反論した。
「意味がわからない。きちんと説明してほしいんだけど」
「あの男と未莉さんは一緒になれない」
友広くんにはその確信があるようだった。だが説明する気はないらしい。
「つまり友広くんが私をひどい目に遭わせるということ?」
「僕は嫌なんです」
思わず首をひねった。
「じゃあそんなことしなきゃいいじゃない」
「もう止められませんよ。動き出してしまったものを今さら……」
「どういう意味? それってもしかして姫野明日香が関係している?」
友広くんは弱々しく首を横にふった。
「僕が助言できるのはここまでです」
え、今の……助言だったの?
今すぐ芸能界を引退するか、優輝をふらなければ私がひどい目に遭うって、ほとんど脅しじゃないか。
冗談じゃない。私だってどっちもごめんだ。
女優デビューする前に引退なんてしたくないし、優輝と本当の意味で結ばれる前に理由もなく私からふるなんておかしいじゃないか。
目的地に着くと、友広くんは私に紙幣を差し出し、自分だけタクシーを降りた。
「僕があなたの一番ならよかったのに」
ドアが閉まる前に聞こえた友広くんの声が、なぜかずっと耳に残った。