どうしてほしいの、この僕に
#30 君しかいない
 シャワーの音を聞きながら目覚めた。
 ——うわっ、私、寝ちゃった!?
 時計を見るともうすぐ午前1時だ。眠っていたのはほんの数分らしい。
 起き上がろうとして、驚いた。
 体のあちこちがみしみしと音を立て、やっとのことで上体を起こすと頭がふらふらした。気だるいどころの話ではない。
 でも汗を流したいから、ベッドを降り、バスルームへ向かう。
 ——あれ、そういえば私、何も着ていないぞ。
 浴室のドアの前で、ふと気がつく。
 あんなことをした後でも、明るいところで見られるのは恥ずかしい。自慢できるようなナイスバディならともかく、どちらかといえば全体的に貧弱ですからね、ええ。
 でも考えてみれば優輝からそれを指摘されたことはない。気を遣ってくれているのか、それとも貧弱な女性が好みなのか。
 不意にドアが開いた。優輝は私を見てクスッと笑う。
「入れよ」
「あ……うん」
 遠慮がちに浴室に入ると、優輝はシャワーヘッドをこちらに向け、私の体に湯を当てた。
「洗ってやろうか?」
 彼はニヤニヤしながら腕を伸ばし、私の背中にシャワーの湯をかける。
「いや……」
「遠慮すんなって」
 私にシャワーヘッドを押しつけると、手早くボディソープを泡立て、私の全身を泡で撫で回し始めた。
「ちょっ、やめっ、くすぐったい!」
 身をよじると、持っていたシャワーヘッドが、偶然にも優輝の顔に湯を噴射した。
「未莉……」
「ごめんなさい」
「水かけられるの、2回目だぞ」
 そういえば優輝に保護された最初の晩も、盛大にシャワーの水を彼に浴びせたな、と懐かしく思い出す。
「だって変なことする優輝が悪い」
 言った途端、シャワーヘッドが優輝の手に奪われた。湯を止めるとフックに戻す。
 それから私の頬を両手で優しく包み込んだ。
「本当はもう少しひとり占めしたかったけど」
 ——え? なんのこと?
 優輝は微笑んでいるが、どことなく寂しげだ。
「落ち込む未莉を見ているのはつらい」
「い、いや、おかげさまで仕事のことはすっかり忘れていましたけど……」
 というか、ベッドの上で他のことを考える余裕などなかった。
 ここで改めて思う。
 ——優輝が私のはじめての人!
 しかもあんなに激しくいやらしいことをされて、私も、私も……うわーっ!
 先ほどまでの行為が生々しくよみがえり、全身が急に熱くなる。
< 198 / 232 >

この作品をシェア

pagetop