どうしてほしいの、この僕に
 膨れ上がった期待がしぼみかけたそのとき、呼び出し音が途切れた。
『……どうした?』
 安堵と緊張で声が出ない。
『未莉?』
「あの、……元気?」
 すっかり舞い上がってしまった私は、自分でも内心ツッコミを入れてしまうくらいまぬけなセリフを口走る。
 笑われるかと思ったが、優輝の声は普段と変わらない。
『まぁな。未莉は?』
「えっと、入院中」
『検査は順調?』
「うん」
 電話をかけておいて、相手の質問に答えるだけというのはさすがにどうだろう、と思う。
 ——えー、用件は……。
「いや、あの……今、どうしているのかな、と思って……」
 電話の向こうで優輝がクスッと笑った。
『ちょうど未莉に電話しようと思っていた』
「嘘だ」
『決めつけるなよ』
「だってなかなか出なかったもん」
 あっ、と思ったときにはもう遅く、妙な間が空いた。
 もしかしたらこの電話は迷惑だったかもしれない。私は慌てた。
「お邪魔でしたね。ごめんなさい。切ります」
『待てよ』
 引き留める声も焦りをにじませている。
『怒っているだろうな、と思って』
「私が?」
『あんなふうに別れてきたから』
 数日前のできごとを思い出し「ああ」と応ずる。
「今はご実家?」
『いや、実家には顔出したけど、仕事もあるから戻っている』
「そうなんだ」
 ——ということは、今マンションにいるの?
 突如、脳裏に浮かんだのは彼が荷造りしている姿だ。想像するだけでも胸が締め付けられるように痛む。
 ——だめだ、考えてはいけない。
 急いでその図を頭の中から追い払った。
『紗莉さんから聞いたんだろ?』
 少しこわばった声で優輝はそう言った。
「まぁ、だいたいのことは、ね」
『本当は……俺、未莉に言おうと思っていたことがあるんだけど』
「……ん?」
 彼にしては珍しく歯切れが悪い。
 何か大事な話だろうか。これ以上悪い話は聞きたくないが、気になって仕方がない。
 次の言葉をじっと待っていたが、優輝は大きく息を吐くと『いや、いい』と勝手に締めくくってしまった。
「え、何? すごく気になるんだけど」
『……実家のポスター見たら無性に悪戯したくなって、おでこに肉って書いておいたから』
「はぁ!?」
 優輝はクックッと茶化すように笑う。
 このまま会えなくなるかもしれないのに、優輝はいったい何を考えているのか。
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