どうしてほしいの、この僕に
 ——本当にこのまま会えなくなるの?
 結局、私も一番訊きたいことは口に出せずにいる。
 笑いをおさめた優輝は、励ますような調子で言った。
『未莉、がんばれよ』
「言われなくてもがんばります。優輝もがんばってください」
『ああ』
 ——まずい。これでは通話が終了してしまう。
「あの……」
 なんでもいいからもう少し優輝の声を聞いていたい。
 だってこんな突然の終わりをすんなり受け入れられるわけがない。
 ——私たちはようやく始まったところじゃないの? そう感じたのは私だけなの?
 涙がこみあげてくるのを必死でこらえ、ずっと胸の中で温めていた言葉を口にした。
「私、会いに行くから」
 優輝はフッと柔らかく笑う。
『今度はなんの変装してくるのか、楽しみにしてる』
 ——来るな、とは言わなかったよね? それはまた会えるってことだよね?
 終わりを覚悟しなくていいとわかった途端、心に羽根が生えたような気分になる。
「逃げないでね」
『どうかな』
 素直にイエスとは言わない優輝の表情が目に浮かぶ。
 電話を切った後、自分が晴れた空のようにすがすがしい気持ちでいることに気がついた。
 寂しくないといえば嘘になる。
 それでも前を向いて歩いていけば、いつか絶対彼のところにたどり着けるとわかったから、もう何も怖くはなかった。
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