どうしてほしいの、この僕に
声を張り上げると、優輝がリビングルームから顔を覗かせた。濡れた髪の毛は拭いたらしく、シャワーでびしょ濡れの痕跡はない。
「じゃあ俺も風呂入るから、後は適当にやっていろ」
「あの、ここって姉の部屋でしたよね?」
引き留めるべきではない、とわかっていたが、これだけはどうしても聞いておきたくて、早口で尋ねる。
優輝は表情を変えずにじっと私を見つめた。
「そう。訳あって今は紗莉さんから俺が借りている」
「私がここに来るって、姉から連絡があったんですか」
「撮影中だったけど、未莉のために飛んで帰ってきた」
「えっ」
「未莉が泣いているって聞いたから」
「な……!」
ウソでしょ!?
私は優輝を凝視した。すると優輝はニッと口の端を上げて見せる。
「泣いた?」
「いや、私が泣いたかどうかより、撮影を抜け出してきたことのほうが問題かと思いますが」
「じゃあ放っておいてほしかった?」
「そ、それは……」
「とりあえず風呂。話は後で」
「は、はい。いってらっしゃいませ」
言ってから、しまったと思ったけど遅かった。すれ違いざま、優輝は私の耳たぶをつかみ「『いってらっしゃいませ、ご主人様』だろ?」と嫌味たっぷりな声で囁いた。
リビングルームにはテレビとソファ、ローテーブルがあり、そのテーブルの上にペットボトルのお茶が置いてあった。『適当にやっていろ』というのはこれを飲んでいいということだろう。キッチンからコップを調達し、風呂上がりの喉の渇きを潤した。
あらためて部屋を見回してみる。間取りは確かに姉の部屋と同じで、こうしてよく観察するとやっぱり姉の部屋だったかな、という気がしてくるけど、姉の荷物らしきものはひとつも見当たらない。
壁際には本棚が並び、小説本や雑誌がぎっしり詰め込まれている。どうやら守岡優輝という人は想像以上に勉強家らしい。
ほかには、役者だから当然かもしれないけど、ラックにDVDがずらりと並んでいて壮観だった。ああ、この作品好きだったな、とタイトルを眺めて懐かしく思っていると、向こうのほうでドアが開く音がした。ご主人様のバスタイムが終わったらしい。
「あの……」
と、廊下を覗いた私は、文字通り飛びのいた。廊下に背を向けて、手で顔を覆う。
「なんて格好しているんですか!」
「俺の家で俺がどんな格好していようと自由だろ」
「じゃあ俺も風呂入るから、後は適当にやっていろ」
「あの、ここって姉の部屋でしたよね?」
引き留めるべきではない、とわかっていたが、これだけはどうしても聞いておきたくて、早口で尋ねる。
優輝は表情を変えずにじっと私を見つめた。
「そう。訳あって今は紗莉さんから俺が借りている」
「私がここに来るって、姉から連絡があったんですか」
「撮影中だったけど、未莉のために飛んで帰ってきた」
「えっ」
「未莉が泣いているって聞いたから」
「な……!」
ウソでしょ!?
私は優輝を凝視した。すると優輝はニッと口の端を上げて見せる。
「泣いた?」
「いや、私が泣いたかどうかより、撮影を抜け出してきたことのほうが問題かと思いますが」
「じゃあ放っておいてほしかった?」
「そ、それは……」
「とりあえず風呂。話は後で」
「は、はい。いってらっしゃいませ」
言ってから、しまったと思ったけど遅かった。すれ違いざま、優輝は私の耳たぶをつかみ「『いってらっしゃいませ、ご主人様』だろ?」と嫌味たっぷりな声で囁いた。
リビングルームにはテレビとソファ、ローテーブルがあり、そのテーブルの上にペットボトルのお茶が置いてあった。『適当にやっていろ』というのはこれを飲んでいいということだろう。キッチンからコップを調達し、風呂上がりの喉の渇きを潤した。
あらためて部屋を見回してみる。間取りは確かに姉の部屋と同じで、こうしてよく観察するとやっぱり姉の部屋だったかな、という気がしてくるけど、姉の荷物らしきものはひとつも見当たらない。
壁際には本棚が並び、小説本や雑誌がぎっしり詰め込まれている。どうやら守岡優輝という人は想像以上に勉強家らしい。
ほかには、役者だから当然かもしれないけど、ラックにDVDがずらりと並んでいて壮観だった。ああ、この作品好きだったな、とタイトルを眺めて懐かしく思っていると、向こうのほうでドアが開く音がした。ご主人様のバスタイムが終わったらしい。
「あの……」
と、廊下を覗いた私は、文字通り飛びのいた。廊下に背を向けて、手で顔を覆う。
「なんて格好しているんですか!」
「俺の家で俺がどんな格好していようと自由だろ」