どうしてほしいの、この僕に
『俺、誰とも付き合う気はないから』
 うっ、妙に話のつじつまが合う気がして怖くなる。
 だって普通、自宅マンションを男性には貸さないでしょう。貸すとしたら、ものすごく信頼している相手だよね。男女の特別な関係と聞いて、清いものを想像できない私の心は荒んでいるかもしれないけど、やっぱりこの状況で一番しっくりくるのは愛人説だ。
「おい、ちゃんと話聞け」
「え?」
 妹の私に何も言わず隠しているのは、やましいことだから?
「未莉」
「はい」
 いや、だって、あのベッド、ひとりで寝るには広すぎるもの。
「そんなに驚くようなことか?」
「ええ、驚かないほうがおかしいですよ」
 どうしよう。疲れていたとはいえ、同じベッドで一緒に眠ってしまったけど。
「今までどんな洗濯機を使っていたんだ?」
「私、そこまで考えが至らなくて」
 どうせならもっと直接的に言ってくれればよかったのに……。
「ボタンを押すだけ、だぞ?」
「うわぁ! なぜこんな簡単なことに気がつかなかったんだー!」
 優輝が怪訝な目で私を見ている。
 ……あれ、今、私、何か口走っていましたかね?
「これまでどういう生活をしていたのか、見てみたくなるな」
「あ、いや、えっと、このボタンを押すだけ、でしたね」
「やっとこっちの世界に戻ってきたか」
 ぼそっと優輝がつぶやいた。
 ヤバい。全然違うこと考えていたのがばれてる。
 私は背筋を伸ばして、優輝をまっすぐ見つめた。
「あの、留守番はきちんとします。そして優輝が戻ったらすぐ新しいマンションに移ります」
「ふーん」
 じゃないと本当にお邪魔虫になっちゃう。一緒に眠るとか、絶対まずいよ。
 姉も優輝もどういうつもりなのか全然わからないけど、これ以上おかしなことになる前に、私がいなくなればいいのだと思う。
 優輝は呆れたような表情で私をしばらく眺めていた。

 その後、燃えたマンションの大家さんから現場検証の呼び出しがあり、私はひとりで外出した。出火元は私の部屋から離れていたけど、ガスの爆発で窓ガラスが飛び散り、その部屋のあった場所は黒焦げの無残な状態だった。ちなみに私の部屋も中途半端に燃え、放水の影響で水浸し。家財の救出はほぼ絶望的だ。これは私の落ち度ではないだけに、今後の出費を考えると泣きたい気持ちになる。
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