どうしてほしいの、この僕に
 もし姉と優輝が愛人のような間柄であるとすれば、姉が優輝のメンタルに悪影響を与えている可能性は大きい。姉を悪く言いたくないけど、時折見せる氷の女王のような冷たい態度に妹の私ですら不信感を抱くことがあるのだから、彼女に恋する男性ならどれほどダメージを受けることか——。
 私はケータイを取り出し、姉にメールを送った。電話で話がしたい、と。
 考えていても何も解決しないし、姉には恨み言のひとつでもぶつけておきたい気分だった。

 優輝の部屋に戻り、食事の準備をしていると、ケータイが鳴った。
『未莉、ごめんなさいね。怒っている?』
 早口にそう言った姉は、私の反応をうかがっているようだ。
「お姉ちゃん、お仕事お疲れさま」
『今、どこにいるの? 守岡くんと一緒?』
「今はお姉ちゃんのマンションにいるよ。なぜか守岡優輝が住んでいてびっくりしたけど。ちなみに彼は地方ロケで昨晩からいない」
『そっか。驚いたでしょう。ごめんなさい、未莉に報告していなくて』
「お姉ちゃんのマンションだから、お姉ちゃんの好きにしていいんじゃない。でも守岡優輝とそんなに親しかったとは、ね」
 嫌味なセリフを口にしたら、ほんの少し胸がスッとした。だけどすぐに姉の困った顔が目に浮かび、やはり言わなければよかったと後悔が首をもたげた。
『親しいわけじゃないのよ。でも守岡くんがマンション探していたとき、ちょうど私もいろいろあって……』
「彼氏と一緒に住んでいるんだって?」
『まぁね。守岡くんには言ってあるけど、そこ、いつか未莉に住んでもらいたいなと思っていたのよ』
「えっ?」
 姉の話は予想外の方向に転がった。姉はこのマンションに私を住まわせるつもりだったということ?
 でも優輝と私が一緒に住むというのは、姉の希望とは違うはず。
「私の見た感じ、守岡優輝に引っ越す気はなさそうだけど」
『ねぇ未莉。私のこと、恨んでいるでしょう』
 姉は私の嫌味を無視して、唐突に言った。ずいぶん卑怯だと思ったが、私も瞬時に妹らしく甘えるなら今しかないと開き直る。
「ううん。でもお姉ちゃんに会いたいときに会えないのは悲しいよ。私、こんな立派な高級マンションに住みたいわけじゃない。私がほしいのは、そういうものじゃなくて……」
『そうだよね。ごめん。だけど私は、どうにかして女優になるという未莉の夢をかなえてあげたいの』
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