どうしてほしいの、この僕に
そう言った友広くんは、立ち上がったかと思うとすばやく私の後ろに回り込んだ。そして頼んでもいないのに、私の後ろ髪を持ち上げ、襟を直してくれる。
「未莉さんって、うなじがとてもきれいですね」
彼の手が後ろから前に回ると同時に、耳元でそう囁かれた。それが優輝に触れられた左側だったので、思わず私は手で耳を覆う。
「ありがとう。もう、大丈夫」
「耳、苦手ですか」
座ったままで友広くんを仰ぎ見ると、彼は少しも悪びれたところのない爽やかな笑顔を向けてきた。
「得意な人っていないと思うけど」
「そうかな。そんな反応されたのはじめてだったので」
彼は女性にいつもこんなことをしているのだろうか。
自慢されたのかバカにされたのかよくわからないけど、優輝にもお子さま扱いされたばかりだったし、私は苛立っていた。
「ごめんなさい。私は慣れていないので、そういうことは他の人にしてもらえる?」
すると友広くんは口の端を器用にきゅっと持ち上げた。
「へぇ、慣れていないんだ」
「それにそういうことをする意味がわからないもの」
「意味?」
少しだけ眉に皺を寄せたかと思うと、友広くんは私のデスクの端に両手をつき、上体を折ると、私にだけ聞こえる声で言った。
「本気で言っているんですか。知らないなら教えてあげますよ。僕でよければいつでも」
「いや、あの、いいの。教えてほしいとかじゃないので」
「ふーん。あの人に教えてもらうんだ?」
——あの人!?
やっぱり覚えていたんだ、と背筋に氷が滑り込んだような戦慄が走り、友広くんの目を確かめないではいられなかった。
「なんのことだか……」
「とぼけなくてもいい。僕以外に未莉さんを落とせる男がいるとは思わなかったので、のんびりしすぎたことを後悔していたんだ。でもよかった。まだ僕にも見込みがある」
「な、なにを言い出すのよ」
彼の瞳が妖しく光るのを、目をそらすこともできず、ただ黙って見入ることになった私は、今朝の優輝の主張が正しかったのだと痛いほど実感していた。
しかしさすがにここはオフィスだし、友広くんもタイムリミットを悟ったらしい。私に挑むような視線を投げつけると、すぐに身を起こし、何事もなかったかのように自分の席へ戻った。
「未莉さんって、うなじがとてもきれいですね」
彼の手が後ろから前に回ると同時に、耳元でそう囁かれた。それが優輝に触れられた左側だったので、思わず私は手で耳を覆う。
「ありがとう。もう、大丈夫」
「耳、苦手ですか」
座ったままで友広くんを仰ぎ見ると、彼は少しも悪びれたところのない爽やかな笑顔を向けてきた。
「得意な人っていないと思うけど」
「そうかな。そんな反応されたのはじめてだったので」
彼は女性にいつもこんなことをしているのだろうか。
自慢されたのかバカにされたのかよくわからないけど、優輝にもお子さま扱いされたばかりだったし、私は苛立っていた。
「ごめんなさい。私は慣れていないので、そういうことは他の人にしてもらえる?」
すると友広くんは口の端を器用にきゅっと持ち上げた。
「へぇ、慣れていないんだ」
「それにそういうことをする意味がわからないもの」
「意味?」
少しだけ眉に皺を寄せたかと思うと、友広くんは私のデスクの端に両手をつき、上体を折ると、私にだけ聞こえる声で言った。
「本気で言っているんですか。知らないなら教えてあげますよ。僕でよければいつでも」
「いや、あの、いいの。教えてほしいとかじゃないので」
「ふーん。あの人に教えてもらうんだ?」
——あの人!?
やっぱり覚えていたんだ、と背筋に氷が滑り込んだような戦慄が走り、友広くんの目を確かめないではいられなかった。
「なんのことだか……」
「とぼけなくてもいい。僕以外に未莉さんを落とせる男がいるとは思わなかったので、のんびりしすぎたことを後悔していたんだ。でもよかった。まだ僕にも見込みがある」
「な、なにを言い出すのよ」
彼の瞳が妖しく光るのを、目をそらすこともできず、ただ黙って見入ることになった私は、今朝の優輝の主張が正しかったのだと痛いほど実感していた。
しかしさすがにここはオフィスだし、友広くんもタイムリミットを悟ったらしい。私に挑むような視線を投げつけると、すぐに身を起こし、何事もなかったかのように自分の席へ戻った。