どうしてほしいの、この僕に
その直後、優輝は急に立ち止まった。
「ふたりで先に行って」
「了解」
柚鈴に腕を強く引っ張られたけど、なんだか気になって私は肩越しに優輝を振り返る。
薄暗い通路に佇む優輝は、笑みを消し、愁いを帯びた眼差しを私に向けていた。
タクシーは繁華街の小路に入り、少し進んだところで止まった。
柚鈴は帽子のつばを下げ、店の入口へ向かう。
自然食レストランと書かれた看板の脇を通りすぎ、店内へ進むと個室へ案内された。どうやら柚鈴がこの店に予約を入れたらしい。食事に気を遣う柚鈴らしい店のチョイスだ。
優輝が来るまでの間、住んでいた古いマンションが火事で焼けたこと、それから姉のマンションへ行ったらなぜかそこは優輝の住居になっていたことを、かいつまんで説明した。
大げさなほど私に同情した様子で相槌を打っていた柚鈴は、突然目を輝かせて言った。
「それにしても、この短期間でそんなおもしろいことになっているとは!」
「私は全然おもしろくないし」
「さすが島村さんだね」
絶妙なタイミングで到着した優輝が会話に割り込んできて、私たちの向かい側に座る。注文を済ませると、私と柚鈴を見比べて、クスッと笑った。
「何がおかしいの?」
「いや、未莉にいい友達がいてよかったな、と思ってさ」
「うわー! ちょっと今、鳥肌たったよ! もう、そういうの、私のいないところでしなさいよ」
柚鈴は私の腕をバシバシ叩きながら、ひとりで照れている。
断じて私は悪くない。そう心の中で繰り返し、優輝を睨みつけた。
そこで注文した料理が運ばれてきたので、一旦会話が止まる。しばらくして、柚鈴が不思議そうな顔で言った。
「それで、どうして守岡くんがうちの社長のマンションに住んでいるの?」
優輝は動じる様子もなく、あっさりと返事をする。
「ま、いろいろあってね」
「いろいろ?」
その『いろいろ』がなんなのか知りたいと思っているけど、優輝がこういう言い方をするときは端から説明する気がないのだ。いくら聞いても無駄だよ、と思いながら柚鈴を見る。
だけど柚鈴が思いつめた表情をしていたので、私はハッとした。
「もしかして、あのうわさ、本当だったの?」
「うわさ?」
柚鈴が私を横目で見る。
「守岡くんが何者かに脅迫されていた、と聞いたことある」
「脅迫!?」
穏やかではない言葉が飛び出したので私は驚いた。
「ふたりで先に行って」
「了解」
柚鈴に腕を強く引っ張られたけど、なんだか気になって私は肩越しに優輝を振り返る。
薄暗い通路に佇む優輝は、笑みを消し、愁いを帯びた眼差しを私に向けていた。
タクシーは繁華街の小路に入り、少し進んだところで止まった。
柚鈴は帽子のつばを下げ、店の入口へ向かう。
自然食レストランと書かれた看板の脇を通りすぎ、店内へ進むと個室へ案内された。どうやら柚鈴がこの店に予約を入れたらしい。食事に気を遣う柚鈴らしい店のチョイスだ。
優輝が来るまでの間、住んでいた古いマンションが火事で焼けたこと、それから姉のマンションへ行ったらなぜかそこは優輝の住居になっていたことを、かいつまんで説明した。
大げさなほど私に同情した様子で相槌を打っていた柚鈴は、突然目を輝かせて言った。
「それにしても、この短期間でそんなおもしろいことになっているとは!」
「私は全然おもしろくないし」
「さすが島村さんだね」
絶妙なタイミングで到着した優輝が会話に割り込んできて、私たちの向かい側に座る。注文を済ませると、私と柚鈴を見比べて、クスッと笑った。
「何がおかしいの?」
「いや、未莉にいい友達がいてよかったな、と思ってさ」
「うわー! ちょっと今、鳥肌たったよ! もう、そういうの、私のいないところでしなさいよ」
柚鈴は私の腕をバシバシ叩きながら、ひとりで照れている。
断じて私は悪くない。そう心の中で繰り返し、優輝を睨みつけた。
そこで注文した料理が運ばれてきたので、一旦会話が止まる。しばらくして、柚鈴が不思議そうな顔で言った。
「それで、どうして守岡くんがうちの社長のマンションに住んでいるの?」
優輝は動じる様子もなく、あっさりと返事をする。
「ま、いろいろあってね」
「いろいろ?」
その『いろいろ』がなんなのか知りたいと思っているけど、優輝がこういう言い方をするときは端から説明する気がないのだ。いくら聞いても無駄だよ、と思いながら柚鈴を見る。
だけど柚鈴が思いつめた表情をしていたので、私はハッとした。
「もしかして、あのうわさ、本当だったの?」
「うわさ?」
柚鈴が私を横目で見る。
「守岡くんが何者かに脅迫されていた、と聞いたことある」
「脅迫!?」
穏やかではない言葉が飛び出したので私は驚いた。