どうしてほしいの、この僕に
昨日のことが脳裏によみがえってくる。
捨て台詞を吐いて会場を飛び出した後、オーディションのことを思い出さないようにしていたけど、考えてみればヤツに「変な顔」と言われるまでは自然にセリフが出てきて、わりといい流れだったかも。
更にさかのぼっていくと、自己紹介でぼーっとしてしまった私に助け舟を出してくれたりして、「変な顔」の衝撃が強烈ですっかり忘れていたけど、実はあの人、そんなに悪いヤツではない……?
「それなら番狂わせがあってもおかしくないよ。なにしろ未莉は招待された有力候補だもの」
「でも本命は姫野明日香でしょう」
「姫野明日香の演技は素人以下だよ。演劇部の高校生のほうがよっぽど演技力あるって」
身も蓋もない言い方に、私は一瞬うっと詰まった。しかしこれは決して柚鈴が毒舌というわけではなく、それが世間の皆さま共通の認識なのだ。
「でも明日香さんは啖呵切って会場を飛び出さなかったからね」
「それはさ……」
柚鈴の言葉をさえぎるように陽気な音楽が鳴り出した。姉が電話に手を伸ばす。
「はい、グリーンティ柴田です。お世話になります。昨日はどうもありがとうございました。……はい、おります」
姉は私を手招きした。受話器のマイク部分をてのひらで覆うと「西永さん」と短く告げる。
胸がドキッと鳴った。ま、まさか、オーディションの結果が……!?
姉のデスクの前で受話器を受け取った。
「お電話替わりました。柴田未莉です」
『おお、未莉ちゃん! 昨日は優輝が失礼なことを言ってすまなかったね』
電話の向こうの西永さんは、昔からの知り合いみたいに親しげな話し方であやまってきた。
「いいえ、こちらこそ後先考えずに飛び出してしまって申し訳ありません」
『いや、当然だよ。あれはひどい。女の子に向かって言うセリフじゃない』
そうだろうか。
あまりにも親身な西永さんに私はわけもなく警戒心を抱いていた。
『オーディションの後、優輝にはきつく言っておいたよ。そうしたら優輝も未莉ちゃんを傷つけてしまったことを深く反省していて、どうしても君に直接あやまりたい、と言ってね』
「え……?」
あれ、なんだか思ってもみない方向に話が展開しているような……。
『どうだろう。この後、時間もらえるなら、食事しながら話したいんだ。もちろん優輝も同席する』
「えっと『この後』って今夜、ですか?」
捨て台詞を吐いて会場を飛び出した後、オーディションのことを思い出さないようにしていたけど、考えてみればヤツに「変な顔」と言われるまでは自然にセリフが出てきて、わりといい流れだったかも。
更にさかのぼっていくと、自己紹介でぼーっとしてしまった私に助け舟を出してくれたりして、「変な顔」の衝撃が強烈ですっかり忘れていたけど、実はあの人、そんなに悪いヤツではない……?
「それなら番狂わせがあってもおかしくないよ。なにしろ未莉は招待された有力候補だもの」
「でも本命は姫野明日香でしょう」
「姫野明日香の演技は素人以下だよ。演劇部の高校生のほうがよっぽど演技力あるって」
身も蓋もない言い方に、私は一瞬うっと詰まった。しかしこれは決して柚鈴が毒舌というわけではなく、それが世間の皆さま共通の認識なのだ。
「でも明日香さんは啖呵切って会場を飛び出さなかったからね」
「それはさ……」
柚鈴の言葉をさえぎるように陽気な音楽が鳴り出した。姉が電話に手を伸ばす。
「はい、グリーンティ柴田です。お世話になります。昨日はどうもありがとうございました。……はい、おります」
姉は私を手招きした。受話器のマイク部分をてのひらで覆うと「西永さん」と短く告げる。
胸がドキッと鳴った。ま、まさか、オーディションの結果が……!?
姉のデスクの前で受話器を受け取った。
「お電話替わりました。柴田未莉です」
『おお、未莉ちゃん! 昨日は優輝が失礼なことを言ってすまなかったね』
電話の向こうの西永さんは、昔からの知り合いみたいに親しげな話し方であやまってきた。
「いいえ、こちらこそ後先考えずに飛び出してしまって申し訳ありません」
『いや、当然だよ。あれはひどい。女の子に向かって言うセリフじゃない』
そうだろうか。
あまりにも親身な西永さんに私はわけもなく警戒心を抱いていた。
『オーディションの後、優輝にはきつく言っておいたよ。そうしたら優輝も未莉ちゃんを傷つけてしまったことを深く反省していて、どうしても君に直接あやまりたい、と言ってね』
「え……?」
あれ、なんだか思ってもみない方向に話が展開しているような……。
『どうだろう。この後、時間もらえるなら、食事しながら話したいんだ。もちろん優輝も同席する』
「えっと『この後』って今夜、ですか?」