どうしてほしいの、この僕に
 優輝はスカートの中で下着のゴムをつまんでいる。見えないのに彼の指の動きを異常なほど意識してしまう私自身が恥ずかしい。脱がされるのも嫌だけど、足の力を緩めることもできそうにない。
「無理、これ以上はもう無理!」
「ふーん。うそつきだな」
 そう言ったかと思うと優輝はまた太ももをなで始めた。内心ホッとしたそのとき、太ももの裏側へ移動した彼の指が下から閉じた足の間に潜り込み、秘められた薄い布地をなぞった。
「ひゃぁ……っ」
 彼の指が火照ったその場所をじれったいくらいの速度で行きつ戻りつする。
「感じていないんだったな。じゃあやめてもいいよな?」
 フッと笑う優輝の吐息が耳にかかる。それだけで彼に触れられている部分にじわりと熱いものが滲んでしまう。きっと、いや絶対、優輝も気がついている。
「やめないでほしいなら『もっとして』って言えよ」
 そんなこと恥ずかしくて言えない。唇を噛んで目を閉じた。
 不意に熱をもつ秘められた場所から優輝の指が離れ、私はごちそうを目の前にしながらおあずけを食らったかのような気持ちになった。おかしいな。目の前のごちそうは十分いただいた後なのに。
 ご飯を食べていた数十分前の平和な時間が、悲しいくらい遠い昔のできごとのように思えてきた。激しい運動後のような疲労のせいで、まだ体に力が入らない。優輝に後ろから抱きしめられたまま、動悸がおさまるのを待つ。
「もうギブアップ?」
「さっきから『無理』だって言っているのに」
「そうは聞こえなかったけど」
「勝手に解釈しないでよ。こんな……恥ずかしいこと……もう無理!」
 私は背中を起こし、はだけたシャツの胸元を両手で閉めた。胸の前で拳を握りしめる。
「うそをつくのは体によくない」
「うそなんかついていないもん!」
 後ろで優輝がクスッと笑った。それから私の背中をゆっくりと撫でる。
「やめてほしくなかったくせに」
 耳元でささやかれ、思わず肩がビクッと震えた。
「ちがっ……!」
「わかった。そういうことにしておく」
 おっ、意外にも聞き分けがいいけど、もしかして何か裏がある?
 訝しんだその瞬間、私の耳にこんな言葉が飛び込んできた。
「そのうちいやでも素直にさせてやる」
 立ち上がった優輝はあっという間にテーブルの皿を片付け、時計を見るなり「ジム行ってくる」と言い残して出ていった。
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