どうしてほしいの、この僕に
バスタブに身を沈めた私は鼻の下までどっぷりと湯に浸かって、今日という1日はなんだったのか、と考えてみた。今日に限らず、近ごろ私の日常がまったく落ち着きのない非日常と化していて、本当に困る。
腕で自分の体をぎゅっと抱きしめた。
とにかく落ち着かなくては。いや、私は落ち着いている。落ち着きがないのは私の周囲であって私自身ではない。
でも、と頭の中で誰かが反論する。
心が乱れてコントロール不能になるのは経験済みだけど、体がいうことを聞かなくなるなんて……あんなの私じゃない。
優輝が私のシャツのボタンを外したことはショックだった。でも私がそれを待ち望んでいたかのような反応をしてしまったことのほうが、今になってみると恐ろしい。思い出すだけで泣きたくなる。
同時に下腹部に覚えのない疼きが走った。体が耐えられないほど熱くなり、私はバシャッと音を立てて勢いよくバスタブから飛び出す。
怖い。私が私でなくなってしまいそうで怖い。もし私が私でなくなったらどうなるんだろう。
とりあえず今は何も考えずに寝よう、と思った。いろんなことがありすぎて頭がパンク寸前だし、優輝がジムから帰ってきて、これ以上おかしなことになっても困るし。
こんな夜は早く寝るに限る。
さっさと寝るための支度を済ませた私は、広いベッドの端にしがみつくような姿勢で意識のスイッチがオフになる瞬間をひたすら待った。
そしてやって来た朝。バスルームが空いていることを確認した私は、シャワーを浴びてすばやく着替えをすませた。これであの男も文句はないはずだ。
優輝はまた早起きして走っているらしい。昨晩はジムへ行き、今朝も走るくらいだから、見かけによらず運動好きなのか、あるいは今後演じる役に備えて体を作っているのかも。
私はなにげなく自分の足を見た。昨晩のあやまちを踏まえ、今日はパンツスタイルにしてみたが、太ももが微妙にきつくなっている気がして焦る。おかしいな。ここに住むようになってから通勤で歩く時間が増えたはずなのに。
これって怠惰のせい?
もしかして私にはプロ意識が足りない?
そりゃ私は姉の事務所に所属しているものの、仕事は皆無ですよ。自慢げに言えることではないとわかっているけど、そんな私が走ったりジムに通ったりしたところで仕事が舞い込んでくるわけじゃない。