どうしてほしいの、この僕に
発言を打ち消すように手をふってみたが、高木さんは前を見据えたまま首を傾げる。
「なんだ、なんだ、未莉ちゃんまで。やっぱり何かあったんじゃないのか?」
「そうだ。昨日電話したとき、守岡くんが『職務質問中』と言っていた。なんだかあやしいわね。あなたたち、いったい何をしていたのよ」
まずい。話題を変えなくては。
「別に何も。私の勤務先のことを教えてあげていただけ」
「ふーん。つまらないわね」
「あーお腹空いたなー。これからみんなでご飯に行かない?」
私は無理して明るい声を出した。ごまかせたかどうかはわからないけど、とにかく話題をすり替えなくては。
しかし私の能天気なひとことで、車内の空気が一変した。
姉は前を向いて「いかない。このままあなたたちを送っていくわ」と言い放った。有無を言わせぬきっぱりとした口調だった。
「あ……はい。お願いします」
「夕食作るのが面倒ならピザでも頼みなさい」
「うん。そうする」
返事は小声になってしまった。
姉の機嫌が悪くなったのは、きっと私の不用意な発言のせいだ。昨晩のことをごまかしたかったのもあるけど、結局私は久しぶりに姉と一緒に過ごすこの時間が嬉しくて仕方なかったのだ。できるならこの4人でもう少し一緒にいたい。それが私の本音だった。
身を縮めて小さくなった。息が苦しい。
そのとき突然、隣の人影が動いた。びっくりして肩が震える。
「僕は怒っていません」
シートの背もたれを戻し、起き上がって座り直した優輝は、窓に肘をついて外の景色を眺めた。私の場所からは彼の表情が見えないけど、口調はずいぶんのんびりしている。
もしかして寝ぼけているの?
なんて訝しく思っていると、姉の「あら、そう」という声が聞こえてきた。
「それに紗莉さんがいけないんですよ。きちんと説明しないから。それでなくても未莉は疎いのに」
え、疎い? なんのことを言っているわけ?
ぽかんとしていると、姉がいきなり大口を開けて豪快に笑い始めた。車内に響く姉の笑い声につられたのか、高木さんも笑い出す。
「守岡くんの言うとおりね。隠すつもりはなかったけど、照れくさくて言いにくかったのよ。ごめんなさい」
しばらくして、ようやく笑いをおさめた姉が目尻の涙を拭いながら言った。
悪いけど、私にはまだ何がなんだか全然わからない。
「どういうこと?」
「なんだ、なんだ、未莉ちゃんまで。やっぱり何かあったんじゃないのか?」
「そうだ。昨日電話したとき、守岡くんが『職務質問中』と言っていた。なんだかあやしいわね。あなたたち、いったい何をしていたのよ」
まずい。話題を変えなくては。
「別に何も。私の勤務先のことを教えてあげていただけ」
「ふーん。つまらないわね」
「あーお腹空いたなー。これからみんなでご飯に行かない?」
私は無理して明るい声を出した。ごまかせたかどうかはわからないけど、とにかく話題をすり替えなくては。
しかし私の能天気なひとことで、車内の空気が一変した。
姉は前を向いて「いかない。このままあなたたちを送っていくわ」と言い放った。有無を言わせぬきっぱりとした口調だった。
「あ……はい。お願いします」
「夕食作るのが面倒ならピザでも頼みなさい」
「うん。そうする」
返事は小声になってしまった。
姉の機嫌が悪くなったのは、きっと私の不用意な発言のせいだ。昨晩のことをごまかしたかったのもあるけど、結局私は久しぶりに姉と一緒に過ごすこの時間が嬉しくて仕方なかったのだ。できるならこの4人でもう少し一緒にいたい。それが私の本音だった。
身を縮めて小さくなった。息が苦しい。
そのとき突然、隣の人影が動いた。びっくりして肩が震える。
「僕は怒っていません」
シートの背もたれを戻し、起き上がって座り直した優輝は、窓に肘をついて外の景色を眺めた。私の場所からは彼の表情が見えないけど、口調はずいぶんのんびりしている。
もしかして寝ぼけているの?
なんて訝しく思っていると、姉の「あら、そう」という声が聞こえてきた。
「それに紗莉さんがいけないんですよ。きちんと説明しないから。それでなくても未莉は疎いのに」
え、疎い? なんのことを言っているわけ?
ぽかんとしていると、姉がいきなり大口を開けて豪快に笑い始めた。車内に響く姉の笑い声につられたのか、高木さんも笑い出す。
「守岡くんの言うとおりね。隠すつもりはなかったけど、照れくさくて言いにくかったのよ。ごめんなさい」
しばらくして、ようやく笑いをおさめた姉が目尻の涙を拭いながら言った。
悪いけど、私にはまだ何がなんだか全然わからない。
「どういうこと?」