魔女の瞳Ⅲ
山はそれ程標高は高くない。

並みの人間でも、一時間もあれば頂上に辿り着けるだろう。

しかし、今回はそうはいかない。

私達は只の山登りでここに来ている訳ではないのだ。

そして、ここの『住人』も私達の目的に感づいている筈である。

「…!」

突然。

ジルコーが先頭を歩く私の肩を掴んだ。

「止まるんだ四門…どうやらお出迎えらしい」

人狼であるジルコーの嗅覚は並外れて鋭敏である。

その嗅覚が、目前にいる姿無き『番人』に気づいたのだ。

「…地縛霊だって聞いていたけど?」

私が言うと。

「どこへでも往くさ」

スゥッと。

そんな音が聞こえるかのように静かに、一人の侍が私達の目の前に現れた。

「姫の眠りを守る為ならばな」

元結(もとゆい)で縛った長い髪。

無精髭の生えた厳めしい表情。

袖のちぎれた着物から、張り詰めた腕の筋肉が露出している。

そして目を奪われるのは、背中に背負った身の丈以上の巨大な刀剣…。

その出で立ちだけでわかる。

この男は相当な使い手だった。


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