魔女の瞳Ⅲ
周防五郎之介時貞。

桃香姫と恋仲であり、彼女を守りきる事ができずに無念の死を遂げた御影城主に仕える武士。

「時貞さん」

桜花が言う。

「私達は桃香姫の怨念を止める為に来たんです。貴方の守る桃香姫は…憎悪と後悔から、今や百禍という悪霊に変わってしまっているんです。彼女の発する怨念で、この御影市には…」

「知っている」

桜花が全て言い終わらないうちに、時貞はその言葉を制した。

「姫が悪霊に変わられた事も、その怨念によって魔物がこの地に引き寄せられている事も、全て承知している」

「だったらどうして彼女を守るの?」

私は時貞に問いかけた。

それに対し。

「愚問だな」

時貞は眉一つ動かさずに答えた。

「姫は眠りにつくまで…眠ってからも、俺に側にいて欲しいと仰った。剣術しか知らぬ学のない武士の俺を、姫はお側に置いて下さったのだ。例え姫が何に変わろうとも、俺は姫の願いを聞き遂げるまで…それが主君に仕える武士というものであろう」

…それは、どこまでも愚直な武士の姿だった。

主の為ならば命を賭してでも忠義を尽くす。

私の生まれたヨーロッパでも、騎士達が『騎士道』という奴を常々口にしていたけど…。

「成程ね…武士道って奴か」

私は歯噛みした。

こういう信念を胸にした者は、人間だろうと人外だろうと手強い事を、私はよく知っていた。


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