魔女の瞳Ⅲ
僅かな逡巡の後。

「わかったわ」

私は一度目を閉じ、呪眼を解放した。

そして。

「     」

ジルコーに対して加速の魔術を行使する。

ヒュオッ…と微かに風の音。

ジルコーの全身を包むように、風の渦が発生した。

これで彼には風の加護が得られた。

只でさえ素早い動きが身上の人狼が、加速の魔術の効果で更に素早くなったのだ。

「よし…じゃあ」

ジャリッと地面を踏みしめ、ジルコーは時貞と対峙する。

「…獣妖か…」

時貞がジルコーを見据える。

「よぉサムライ…勝負だ」

ジルコーも身を低くして、疾走する構えを見せる。

まるでスプリンターがスタンディングスタートを切るような構え。

…その体勢のまま、両者は動きを止めた。

どちらが先に動くか。

私と桜花、修内太の三人は動向を見守る。

ピンと張り詰めた空気。

声でも出そうものなら、その均衡は簡単に崩れ去る。

故に声など出せない。

身動き一つ取れない。

瞬きさえ許されない緊張の中。

「……行くぜ!!」

ジルコーが先に動いた!

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