魔女の瞳Ⅲ
私と修内太は顔を見合わせる。

魔術としては基礎中の基礎、大した威力もない火矢の魔術に、百禍ほどの悪霊が何故…?

少し考えを巡らせて、私は思い当たった。

…悪霊とはいえ、彼女にも生前の記憶というものがある。

とりわけ死の寸前の記憶というのは鮮烈に残っている筈だ。

攻め込んでくる大国、逃げまどう人々、燃え落ちる御影城。

その城に炎を放ったのは紛れもなく。

「そうか、火矢!」

修内太が叫んだ。

桃香姫自身も、燃え盛る天守閣で命を落としたと聞いている。

そのきっかけとなった火矢には並々ならぬ恐怖を感じている筈だ。

「修内太」

「ああ」

私の呼びかけで、彼は呪眼に魔力を注ぎ込む。

「過去の傷をえぐるみたいで気が引けるけど…勘弁な!」

修内太が半身の姿勢で右手から次々と『火矢』の魔術を放つ!

その炎に。

「ヒッ…ヒィィイィィイィッ…!」

あれ程の憎悪を撒き散らして私達を追い込んでいた百禍が、急にその勢いを弱め始めた。

< 72 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop