強引上司がいきなり婚約者!?
* * *
そんなわけで、私、小枝志帆は、ちょっと苦手な俺様上司と口止め協定を結ぶことになってしまったのだ。
その日の夜、午後9時過ぎ。
ひとり暮らしをする1DKの部屋で、お風呂上がりにベッドに寝転ぶ。
まだ少し湿った髪が首筋に触れたけれど、暑い夏の夜にはドライヤーで長い髪を乾かすのもひと苦労なのだ。
私は熱のこもった部屋のエアコンのスイッチを入れ、枕もとの携帯に手を伸ばした。
「あれ、メールきてる」
メッセージを開いてみると、なんと差出人はさっそく兎川宗佑だ。
「げえ」
私は思わず鼻の頭にシワを寄せる。
つい2日前までは、個人的に連絡を取り合うことなんて一生ない相手だと思っていた。
モテて派手で目立ってイケメンで、営業部エースのエリートだもん。
私とは縁のない人だったはずなのに。
《明日の昼、弁当作ってこいよ》
私は恐る恐るメッセージの内容に目を走らせ、慌ててベッドから飛び起きた。
「おっ、お弁当!?」
そんなの自分のためにも作ったことないのに!
それから急いでキッチンへ飛び込んで、まず初めにお弁当箱を探し出すことから始めた。
兎川さんの秘密の婚約者の役って、思ったより大変なのかもしれないと、こっそり冷や汗をかきながら。