強引上司がいきなり婚約者!?
藤也に家事ができないからとフラれたときは、ただショックで悲しいだけだった。
でも兎川さんに手料理をからかわれると、悔しくて恥ずかしくて、見返してやりたくなる。
ああ、どうして私、女子力高い系OLじゃないんだろう。
兎川さんはタッパーの中からたまごふりかけのおにぎりを選び、パクリと頬張る。
「ん、うまい。上手じゃないか」
そりゃあ、炊いて握っただけですからね。
私がプウッと頬を膨らませて拗ねていると、それに気がついた主任はおかしそうにクスクスと笑った。
近寄りがたく思っていた彼もこんな屈託のない少年のような笑い方をすることがあるんだって、ちょっと不思議な気分になる。
それから兎川さんはすごいスピードでおにぎりとバナナをあっという間に食べ終わってしまった。
「ごちそうさま」
随分と軽くなった空のタッパーを受け取って、私はふと首を傾げる。
「あの、こんなお弁当でしたけど、誰かに見せなくてよかったんですか。婚約者の手作りだって」
私が頼まれたのって、そうやって兎川さんの架空の婚約者の気配を演出することだったと思うんだけど。
兎川さんは非常階段の手すりに頬杖をつき、眩しそうに目を細めて私を見る。