強引上司がいきなり婚約者!?
「いいんだよ。蒼井には弁当あるって言ってあるし。ウワサってのは、まわりの勝手な憶測から広がってくもんだ」
「はあ、なるほど」
蒼井さんと兎川さんは同期で気も合うらしく、お互い社内にいるときは一緒にコンビニへ行ったり外食したりしているのを目にする。
兎川さんのファンである女子たちならきっと、些細な変化にもいずれ気がつくだろう。
ふたりが昼食を共にしないことを疑問に思って蒼井さんを問い詰めれば、友人である彼から、兎川さんは近頃お弁当を持ってきているという証言が飛び出す仕組みだ。
たしかに、突然オフィスでお弁当を広げるより信憑性がある。
誰が作っているのかと、女子たちに直接突撃されることもない。
私が素直に納得して頷くと、兎川さんはくっきりとした二重の両目をかまぼこ型にして、ニッとイジワルく笑った。
「ま、小枝の腕が上達したら見せびらかしてやってもいいんだけどな」
「うっ、兎川さんが教えてくれる約束です」
キッと上目遣いに睨んで小声で反撃する私の頭の上に、大きな手のひらが優しくポンッとのせられる。
「そういうことだ。お前、週末ちゃんと空けとけよ」
「え?」