強引上司がいきなり婚約者!?
なんだか兎川さんて心臓に悪い。
肩の力が抜けたら私もお腹が空いてきたし、はやくお昼ごはんを買いに行かなきゃ。
本当は兎川さんのために握ったおにぎりのいくつかを自分のお弁当にしてもよかったんだけど、万が一誰かに見られて怪しまれるとすごく困る。
だから今日もいつも通りコンビニで済ませることにしたのだ。
エレベーターのボタンを押そうと手を伸ばしたとき、ちょうど目の前の扉が開いた。
中から出てきたのは明るいグレーのストライプスーツを着た男性で、あまり見覚えはない。
「おつかれさまです」
道を譲って頭を下げ、彼がエレベーターを降りるのと入れ違いに足を踏み出す。
「ちょっとストップ」
すると突然うしろから肘のあたりを掴まれ、私は驚いて振り返った。
背後でエレベーターのドアがゆっくりと閉まる気配がする。
「あ、あの……?」
男性は私の腕を掴んだまま、ジーッとこちらを見下ろしている。
彫りの深い目もとと高い鼻が特徴的で、ホールの照明を浴びて顔の半分には影がかかっていた。
目は猛禽類のように力強く、異国の地が混ざっていそうな美丈夫だ。
兎川さんより少しだけ背が低くて、私の腕を掴む強さは彼と比べると痛く感じるほどだった。