強引上司がいきなり婚約者!?
「きみ、営業部の子? 名前は?」
「こ、小枝志帆と申します」
頭のてっぺんから爪先まで、彼は私を観察するように視線を走らせる。
威風堂々とした容姿の男の人にジッと見られると、なんだか圧倒されて身が竦んだ。
私、なにか失礼なことしちゃったかな。
緊張でカチコチになった声で名前を名乗ると、彼はアッシュブラウンの髪をかき上げて、薄い唇を愉快そうに歪める。
「へえ、志帆ちゃんね。うちの会社にこんな子いたんだ。キレイでおっとりしてて従順そうで、どストライクなんだけど」
「は、はあ……ありがとうございます」
これって、私のこと褒めてくれてるのかな。
軽薄そうな雰囲気と嗜虐的な笑い方がちょっと怖い。
なんて言うか、兎川さんとは違った意味で苦手なタイプかも……。
だけど波風を立てるのは嫌なので、ここは無難にお礼を言って頭を下げる。
すると彼はスーツの内ポケットからサッと名刺を取り出し、それを掴んだままの私の手の中に握らせた。
「俺、志帆ちゃんのことタイプだよ」
そのまま私の手をギュッと握ってから念を押すように微笑みを作り、くるりと背を向けて営業部のフロアのほうへ去っていく。