強引上司がいきなり婚約者!?
「私、褒めてますよ」
なにが気に食わないんだろう。
兎川さんがふんっと鼻を鳴らす。
「ばーか。いいから食え。そのうち思い知らせてやるから、お前、ほんと覚えとけよ」
なんだか恨めしそうな彼は、私の前に置いてあるきれいな卵で包まれたオムライスを顎で指してぞんざいに言った。
本当は私がこげこげ卵のオムライスを食べるつもりだったんだけど、兎川さんが「今後の指導の参考に」と言って譲らなかったのだ。
私は従順に頷き、見た目からしておいしそうな兎川さんのオムライスをいただく。
兎川さんに教えてもらいながら作ったたらこのオムライスは特別な味がして、くすぐったい。
とくに意味はないんだけど、どうせなら彼の好きなこの味を覚えたいななんて思う。
私はこっそり目線を上げて、目の前の男の人を盗み見た。
ねえ、『思い知らせてやる』って、兎川さんの思い通りにならないことをですよね。
それってこの先いつか、あなたの弱点を私に教えてもいいよってこと?
別に喜ぶことでもないはずなのに、兎川さんのいう『そのうち』を楽しみにしてしまう自分がいる。
仮初めの恋人って、どこまで特別になることを期待していいんだろう。
この関係が単なる利害の一致からうまれたビジネスライクなものだとわかっているのに、こんなふうにプライベートな彼を見せられたら、そんなに器用じゃない私は困惑してしまう。
兎川さん。
あなた、私をどうするつもりなんですか。