強引上司がいきなり婚約者!?
重いドアを引いて、ビルの中に身体を滑り込ませる。
それでも私にもちょっぴり意地ってものがあるから、扉が完全に閉まる前にくるっと向きを変えた。
わずかな隙間から悔し紛れの視線を投げつける。
「あの、婚約者としてってことですから。ニセモノの!」
「はいはい。わかったわかった」
余裕綽々の兎川さんが軽くあしらうようにヒラヒラと手を振るのがチラリと見えて、すぐにドアが閉まる。
非常階段のドアがガチャンと閉まる音が、エレベーターホールに響いた。
私はその場に突っ立ったまま、お弁当箱の上に顔を埋める。
頭からシューシューと湯気が出てる気がした。
あんな、みんなが認めるかっこいい人に惹かれていくなんて、厄介だってわかってるのに。
落ち着かない鼓動が、私がいかに兎川さんの魅力にずるずる引っ張られているか、情けないほど示してる。
恥ずかしい。
こんなに単純に誰かを好きになれるなんて、今まで知らなかった。
もしかしたら私、兎川さんに近づいたらすぐにこうなっちゃうことをどこかでわかってたから、ずっと彼のこと苦手だって思い込もうとしてたのかな。
だけど仕方ないよ。
兎川さんって、知れば知るほど好きにならない理由がない。